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 鈴緒・小早川といえば、父上が尊敬する唯一の魔女だ。その魔法薬学に関する知識は膨大で、その他のことへの造詣も深いという。例のあの人の友人で、あの人さえも凌ぐと言われる魔力を持ち、世俗とは関わりを持たず気ままに生きている人だと聞かされてきた。その父上の尊敬する人が、どうしてここへ? それに――僕の頭を、撫でた……。


「小早川さん、僕、僕――」


 ハリー・ポッターが親しげに話しかけているのに苛立つ。この人はお前なんかが話しかけて良い人じゃないんだ。さっき繋いだ手を見つめた。半世紀を越えて生きている人のそれとは思えないくらい柔らかくて、ちょっと筋張ってきているけど、滑らかな手だった。象牙色の肌がエキゾチックで黒髪が本当に似合う。身につけているのはローブじゃなくて変な形をした服で、昔聞いた話によればキモノという民族衣装らしい。


「ちょっと時間食ったからね。――まあついてくことになったのも何かの縁だ、行こうか」


 自然に僕のそれと繋がれた手は、ポッターに対する優越感を感じさせてくれる。ポッターは手を繋いでいない。銀色に月光を反射するユニコーンの血を追って、僕たちは先へ進んだ。


「止まって――見て」


 ファングだとかいう犬が鈴緒さん――父上はこの人をそう呼ぶ――の後ろに逃げ込んで尾を足の間に挟んだ。厳つい顔をしてるくせに、恐がりだって言うのは本当みたいだ。

 木々が開けた平地に出ようというところで待ったをかけられ、ポッターが鈴緒さんを振り返って不思議そうな顔をした。鈴緒さんの空いた手は小広場の中央、小さな影を指した。あの影は――ユニコーンだ! 血を流し、もう死んでいるのか、静かに横たわっている。


「助けなくっちゃ」

「待って」


 ポッターが平地に踏み出そうとし、それを鈴緒さんが制した。何事かと目を凝らせば、黒いフードを被った――まるで吸魂鬼のような誰かがするするとユニコーンに近付いていた。まるで闇を体現したみたいなその存在に顔が引き攣る。叫びそうになって手に違和感があり見れば、優しく握り締められていた。僕は一人じゃない、大丈夫だと、言ってくれてるみたいだ。でも怖いのはやっぱり怖くて、一歩後じされば枝を踏んだ。

パキン!


 ビクリと身が竦んだ。フードの誰だかがこっちを振り返って、近寄ってきたんだ。鈴緒さんが逃げなさいと囁いてファングのリードを渡してきて、背中を押された。僕は逃げた。ファングのスピードについていけなくて引きずられたりしたけど、必死に森の入口を目指した。あの巨人に会わなければ――鈴緒さんを残して来てしまったんだ。


「おい……おいっ! 森の番人! ハグリッド!」


 ファングはどうやらあの巨人の匂いに向かって走っていたみたいで、僕はすぐにあの巨人と合流した。


「鈴緒さんが、鈴緒さんがユニコーンを殺した犯人と、犯人と!」


 そして巨人に言い募る。巨人は慌てもせずあの人なら大丈夫だ、と慰めにもならないことを言っていた。役立たずめ!

 その後ケンタウルスに乗せられてやってきたのはハリー・ポッターだけで、鈴緒さんの姿はなかった。


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