14


 ハグリッドから、ドラゴンが生まれそうだって手紙が来た。僕とロンはハーマイオニーを何とか説得してハグリッドの小屋に行こうと、できる限り切々と説いた。


「授業があるでしょ。さぼったらまた面倒なことになるわよ。でも、ハグリッドがしていることがバレたら、私たちの面倒とは比べ物にならないぐらい、あの人ひどく困ることになるわ……」


 僕はハーマイオニーの言葉を途中で遮った。マルフォイがほんの数メートル向こうにじっと立ち止まって、僕たちの話に聞き耳を立ててたんだ。マルフォイがどんな表情をしてるのか見えなくて、余計不安だった。







「もうすぐ出てくるぞ」


 休み時間になって、走ってハグリッドの小屋に向かった。ハグリッドは顔を真っ赤にして興奮してる。足がガタガタと貧乏ゆすりしてて、ハグリッドの興奮具合が分かった。見れば卵はテーブルの上に置かれてて、中でドラゴンが暴れてるんだろうけど、不気味にカタカタと揺れてた。亀裂がだんだんと大きくなって、遂に――

 キーッ! と内側から引っ掻いたような音がした。卵はぱっくりと二つに割れて、黒い塊が転げ出てきた。可愛いなんて言葉はこれに使うべきじゃない、捨てられたこうもり傘みたいにしわくちゃで、やせっぽっちで骨ばってた。なのに目だけはオレンジ色で爛々としてる。

 ハグリッドが何かを思い出したみたいに棚から何も入ってない瓶を取り出した。こけそうなくらい慌てた様子でその赤ちゃんドラゴンに近寄り、くしゃみと一緒に出た火花を瓶に保存してた。


「ああ……素晴らしく美しい、だろう?」


 ハグリッドはそれの頭を撫でようとして、噛まれてた。


「こりゃすごい、ちゃんとママちゃんが分かるんじゃ!」


 ママと思われていないことは僕たち三人には明らかだった。ハーマイオニーが心配そうに質問する。


「ハグリッド。ノルウェー・リッジバック種ってどれくらいの早さで大きくなるの?」


 それは僕も気になったし、ロンもそうだと思う。ハグリッドは答えようと顔を上げて、音を立てて顔を青くした。はじかれたように椅子から立ち、窓に駆け寄る。


「どうしたの?」

「カーテンの隙間から誰かが見ておった……子供だ……学校の方へ駆けて行っとる」


 急いでドアを開いてその後ろ姿を確認した。あの髪は、あのカラーは間違いない、マルフォイだ!


「どうしよう、あいつはマルフォイだ!」

「うええ、よりにもよってあいつが?!」


 僕が言えばロンが吐きそうな顔をして頭に手を当て、ハーマイオニーは真っ青になって目を見開いた。


「マルフォイ? なら……いやしかし、俺はレイノとそこまで親しいわけでもないし……」


 ハグリッドはいままでに何度も口を滑らせてきた。今回も何か滑らせてくれるかもしれない。こんな時だけど、これはチャンスだ! 話しかけるきっかけを掴めるかもしれない。


「レイノ? レイノならなんとかしてくれるの?」

「ああ。レイノは俺と一緒だ……あいつもドラゴンの良さっちゅうもんをよーく分かっとる。この瓶を用意したのもあいつだからな。産火は貴重だ……破魔の火だ」

「え、スネイプが産火を?」


 ハーマイオニーが目を丸くした。


「ああ。お前さんたちと会う前に、俺はレイノと会ったんだ。ロックケーキを美味いっつーて食っちょった」


 ロンが信じられないとばかりに棚のロックケーキを振り返った。僕も信じられない。あんなに固いケーキが美味しいだって?


「ドラゴンが孵るのを俺とおんなじくらい楽しみにしとった」


 ハグリッドからこれ以上何かを聞き出すのは無理だった。おんなじことを延々と言うだけだったから。でもこれで、レイノと話す話題ができた。――マルフォイに黙っているように、頼もう。これを機会に打ち解けられたら良いのだけど……。


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