12


 イタチ肉を挟んだサンドイッチを出されたけど、食べようとは思えなくてお茶だけ飲む。ロックケーキのかすがテーブルの端に残ってて、ハグリッドは無造作にそれを払った。


「それで、おまえさん、何が聞きたいんだった?」


 こんな暑い中じゃイタチの肉も腐るか干からびるんじゃないだろうかとハリーは思った。


「ウン。フラッフィー以外に『賢者の石』を守ってるのは何か、ハグリッドに教えてもらえたらと思って」


 あのレイノの父親――だとは絶対に思いたくないけれど――のスネイプが『賢者の石』を狙ってるのは確実だ。ハリーはレイノを犯罪者の娘にしたくないし、レイノが悲しむ姿を見るのも嫌だった。


「もちろんそんなことはできん。先ず第一、俺自身が知らん。第二に、お前さんたちはもう知り過ぎておる。だから俺が知ってたとしても言わん。石がここにあるのにはそれなりのわけがあるんだ。グリンゴッツから盗まれそうになってもなぁ――もうすでにそれも気づいておるだろうが。だいたいフラッフィーのことも、一体どうしてお前さんたちに知られてしまったのか分らんなぁ」

「ねえ、ハグリッド。私たちに言いたくないだけでしょう。でも、絶対知ってるのよね。だって、ここで起きてることであなたの知らないことなんかないんですもの」


 ハーマイオニーがおだてると、ハグリッドのヒゲがピクピクした。笑ったみたいだ。


「私たち、石が盗まれないように、誰がどうやって守りを固めたのかなぁって考えてるだけなのよ。ダンブルドアが信頼して助けを借りるのは誰かしらね、ハグリッド以外に」


 ハグリッドが嬉しそうに胸を張った。良くやった、と目配せすれば、ハーマイオニーもウィンクを返してきた。










 『あの』スネイプが石を守る魔法に協力した?――ハリーには信じられなかった。ハーマイオニーもロンも同じように思ってるみたいで、疑わしいと眉間に皺を寄せている。

 だがそんな時あの見知らぬ女性の言葉が甦る――スプーナー教授になるな。かけ間違えたボタン、スプーナリズム。どれをかけ間違えているのかなど、ハリーには分からなかった。迷って視線をさまよわせ、暖炉でゴウゴウと炎に焼かれる黒い卵を見つけた。


「ハグリッド――あれは何?」


 聞くまでもなく明らかなことだった。


「えーと、あれは……その……」


 ハグリッドは落ち着きなくヒゲをこねくり回した。ロンが暖炉を覗き込んで歓声を上げる。


「ハグリッド、どこで手に入れたの? すごく高かったろ」

「――賭けに勝ったんだ。昨日の晩、村まで行って。ちょっと酒を飲んで、知らない奴とトランプをしてな。はっきり言えば、そいつは厄介払いして喜んどった」


 ヒゲをいじる手は止まらなかった。ハーマイオニーが眉尻を吊り上げた。


「だけど、もし卵が孵ったらどうするつもりなの?」

「それで、ちいと読んどるんだがな」


 ベッドに手を伸ばして、ハグリッドが枕の下から取り出したのは一冊の古い本だった。


「図書館から借りたんだ――『趣味と実益を兼ねたドラゴンの育て方』――もちろんちいと古いが、何でも書いてある。母竜が息を吹きかけるように卵は火の中に置け。なぁ? それからっと……孵った時にはブランデーと鶏の血を混ぜて三十分ごとにバケツ一杯飲ませろとか」


 この卵はノルウェー・リッジバックという種類のドラゴンの卵だと言われても、ハリーにはあまり興味が持てなかった。ハーマイオニーはさっき言っていたのだ――ドラゴンを個人で飼育するのは違法なのだ、と。


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