10 試験十週間前になった。そろそろあれが孵化するはずだ、ノーバート。ドラゴンの産火は高く売れる――じゃなくて。浄化作用があって、どんな毒も呪いも消せるんだよね。欲しいなぁ、ハグリッド、くれないかなぁ……。 会わせてもらえないだろうから、ちょっと残念に思いながら図書館でドラゴンの本を読むことにした。ドラゴンの産火……うう、欲しいよぅ。耐熱薬瓶も持ってるってのに。 宿題に忙しい皆はそっちに集中しててもらって、コートを重ね着して図書館に向かう。前に一回体の表面に温かい空気の層を張ってみたことがあったけど、あれはなかなか良かった。何でもっと前に思いつかなかったんだろーかってくらい良かったんだけど、あまりに居心地が良すぎて薄着したから逆に心配されたんだよね。 厳しい視線に作り笑いを贈って本棚に走り込む。あのいかにもな厳格の塊はちょっと苦手だ。ミネルバばーちゃんはまだ愛嬌があるんだけどな。 ドラゴンの棚に行き、『イギリスとアイルランドのドラゴンの種類』、『ドラゴンの飼い方――卵から灼熱地獄まで』とかを読む。実はこの本を読むのは二度目だったり。リドルと一緒の時、図書館の本は全部征服して見せる! って言って読んだのだ。歴史関係の本はあんまり読まなかったけど。魔法史は苦手だ。――魔法史。魔法史? 何か忘れてるような気がする。魔法史ねぇ……。 棚の前で立ち読みしてた私の横に大きな影が差した。見上げれば――ハグリッドだ。 「ありゃりゃ」 今日だったのか。もうこのイベントは終わってるものだとばかり思ってたよ。 「おお、おまえさんは――レイノか」 私とハグリッドの付き合いはほぼないに等しい。入学前から交流があったのはジジイとミネルバばーちゃんだけだし、セブに引き取られてからルーピン先生とは一回も会ったことがない。騎士団の人たちは――さっぱり。 「初めまして、ハグリッド。何探してんの?」 ハグリッドは小さな黒い目をキョドキョドさせた。 「あー、いや……もう探すのは諦めようかと思っとったんだ」 「そう」 私は題名が見えるように本を持ちかえた。 「おお、それだ!――あ、まあなんだ、気にせんでくれ」 私は心の中でこっそり口の端を上げた。これは……産火ゲットのチャンスですか?! 「ドラゴンって良いよね」 ハグリッドは話が急に変わったことにキョトンとし、それからコクコクと頷いた。 「ああ、ドラゴンっちゅーのは良いもんだ、あの鱗、あの力。魅力的だ、なあ?」 「うん。それに産火――生まれて初めて吐く火には浄化作用があるしさ、本当に魅力的な生物だよね」 私は『研究対象』として興味があるけど、ハグリッドは『愛でる対象』として興味があるんだろうな。まあそれを分かった上でこんなことを言ってるんだけど。 「ど、ドラゴンを生で見たいと思わんか……?」 ハグリッドが腰をかがめて耳打ちしてきた。いよっしゃあああああああ! 「もちろんだよ」 田舎に住んでた私は、家の窓にトカゲやらヤモリやらが貼り付いてるのを何度も見たことがある。グロいって言う子もいるかもしれないけどなかなか可愛いんだよ。だからそれに似てるはずのドラゴンも、きっと可愛いに違いない。 「後で――ウーン、今から小屋に来んか? 見せたいのがあるんだ」 私はもちろん快諾したとも。ど、ど、ドラゴンちゃん☆ 待っててねー! |