ハリーは転げるようにグリフィンドールの席に走った。大広間にひとはもうまばらだった。


「ハーマイオニー!」

「まあ、ハリー! 貴方ったら、一体どこにいたのよ?」

「僕らが勝った! 君が勝った! 僕らの勝ちだ!」


 『物知りの友達』の名を叫ぶように呼んだ。ロンがハリーの背中を叩きながら歓声を上げる。


「みんな談話室で君を待ってるんだ。パーティをやってるんだよ。フレッドとジョージがケーキやら何やら、キッチンから失敬してきたんだ」


 焦りで空腹を忘れたハリーは焼きたてのパンを掴んだ。冷えた指先が熱い。パンを振りまわすように腕を回して言う。


「それどころじゃない――どこか誰もいない部屋を探そう。大変な話があるんだ」


 三人はピーブズのいない部屋に隠れ、鍵を確かに閉めた。


「僕らは正しかった。『賢者の石』だったんだ。それを手に入れるのを手伝えって、スネイプがクィレルを脅してたんだ――」


 今さっき確信へと変わったことを話す。


「それじゃ『賢者の石』が安全なのは、クィレルがスネイプに抵抗している間だけということになるわ」

「それじゃ三日ともたないな。石はすぐなくなちゃうよ」


 ハーマイオニーが顎に手を当て、真剣に眉間を渓谷にした。ロンは絶望的だと頭を振る。クィレルがあのスネイプに抵抗し続けられる訳がない。


「それで、僕――女の人に会ったんだ」

「女の人?」

「ホグワーツの先生じゃなかった。見覚えなんてなかったし……アジア人だよ。その人はヒントだって言って、変なことを言ったんだ。スプーナー教授がどうとかって」


 訊ねるロンに頷いた。ハーマイオニーが先を促す。


「えっと『問題を解くときは自分がスプーナー教授になってないかもう一度見直せ』だって」


 ハーマイオニーが呆れたようにため息を吐いた。


「貴方たち、スプーナリズムって言葉に聞き覚えないの?」

「何それ?」

「あんまり聞かない言葉だね」


 ロンは頭を捻り、ハリーも耳慣れないそれに疑問符を飛ばした。


「スプーナー教授っていうのは、William・A・Spooner。オクスフォード大学の学寮長で、言い間違いが多かった人よ。例えばI’ll take a shower.(シャワーを浴びてくるね)をI’ll shake a tower.(俺はタワーを揺さぶってみせる)って言ったりしたの。つまりそのヒントは、言い間違いをしている可能性を考えなさい――つまり事実を見誤るなってことでしょ」


 ロンはハリーに知ってたかと目で訊ね、ハリーは首を振って答えた。


「でも、事実を見誤るなってどういうこと?」

「それを私に聞かれても困るわ」


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