11


 ロンに止められたのを振りきり、ハリーはみぞの鏡を見にきた。この鏡さえ見ていれば幸せでいられるような、不思議な浮遊感――酩酊感というのだろうか?――を感じていた。




「ハリー、また来たのかい?」


 ぼんやりと、でも食い入るように鏡面を見つめるハリーの背後から声。そこにはよりにもよって、ホグワーツ校長、アルバス・ダンブルドアが机に腰掛けて、いた。


「ぼ、僕、気がつきませんでした」


 背筋が凍る思いとはこういうことを言うのだろう、とハリーは確信した。今度こそ退学、という言葉と、そうなれば鏡と離れ離れになってしまうだろうことが不安を煽る。


「透明になると、不思議にずいぶん近眼になるんじゃのう」


 微笑みながらそう言うダンブルドアに安堵する。どうやら退学にはならないですむようだ。でも、どうしてダンブルドアがここに?

 ダンブルドアはハリーの横に座る。


「君だけじゃない。何百人も君と同じように、『みぞの鏡』の虜になった」


 ダンブルドアは終始穏やかにハリーに説明した。心の奥底にある、真の望みを映し出す鏡。だがそれはガラス一枚隔てた向こうにしかなく、決して手の届かない夢想……。







「あの……ダンブルドア先生、質問してよろしいですか?」

「良いとも。今のもすでに質問だったしね。でも、もう一つ――いや、もしかしたら二つだけ、質問を許そう」


 微笑むダンブルドアに促される。


「僕の家族は――母さんは、レイノ……レイノ・スネイプとそっくりです。瞳の色は父さんと一緒で。レイノは僕の両親と、どんな関係があるんですか?」


 鏡に映し出される女性は何度見ても、いや、見れば見るほどレイノと瓜二つなのだ。


「ハリーや。それはすまないが、わしの口からは教えられんことなのじゃ。自分の心を信じなさい、そうすれば真実に辿りつけるはずじゃ」


 ダンブルドアはやんわりと断った。ハリーは憮然とする。


「どうしてですか? どう見たって、誰が見たって母さんとレイノは」

「ハリー。よく聞くんじゃ」


 ダンブルドアに掴みかかるようにして訊ねたが、老人は目を細めつつ宥めるように言う。


「英雄というものは、二つあっては人が惑う――それがわしの言える全てじゃ」

「英雄……?」

「さあ、もう一つ質問があるのではないかのう?」





 自分の枕を占領するスキャバーズを払いのけつつ、ハリーはさっきのことを考えていた。教えてくれなかったダンブルドア。でも、ヒントを残してくれた。



『二人の英雄はいらない』




 ――……それが示す意味は、一体何なのだろうか?


[] | []

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -