8 試合を終えて、私は御馳走を用意したんだ! と騒ぐアメリアたちからほうほうの体で逃げ出した。食ったら吐く。私は薬品の匂いで満たされた室内で丸くなっていた。 「凍りついて死にそう……」 まだ暖かいうちには楽々できた就寝前のセブ訪問も、寒くなってくると道のりが苦痛だ。保温魔法があるからそれをローブにかけているんだが、隙間から忍び込む雪の女王が色々と凍らせてくれるので、やる気や元気もクールダウンだ。ダウンってか後退して良いのはデコリーンズのデコだけだよ。 「レイノ、来い」 私はレポートの採点してる様子を椅子に座り膝を抱えて見ていた。と、セブが手招きしてきた。ううう、動くとローブの隙間から冷気が……! もぞもぞと動いて、セブに寄った。足の間に座り、丸まる。 「暖かいー」 この萌えシチュにも心がホットになりました。うへへ。 「今何年生の採点してんの――五年生か」 これ、懐かしいなぁ。ほっほう笑いのデブ教授が良く分らん説明をして、皆が試験で間違えた範囲だ。もちろん私とヴォルディーは正解したけど。私は予習知識があったし、ヴォルディーはあのジジイの解説を信頼してなかったから自分で調べてたしね。 「分かるのか」 「うん。セブがいない時はずっと本読んでたし、これ五年生の教科書に載ってたしね」 家にあんまりセブがいなくて良かったと思う。私、ニヤニヤ笑いながら魔法の勉強してたからね。憧れのハリポタワールドで魔法のお勉強だよ? 喜ばない方がおかしい! 「ふむ、ではこれは分かるか?」 「これはこの薬草が十七グラム足りないね。十三と三十の書き間違いだろうけど、これじゃあ失敗か、できても胃を溶かすよ」 つまり使い物にならない。飲むな危険!――失敗と同じ意味だった。 「では次はこれだ」 「右に二回、左に一回半でしょ。鍋は銅製じゃなくて錫製にしなくちゃ」 いつの間にかレポートの採点を手伝うことになっている。あれ、おかしいな。 「そう言えばレイノ、今日は紅茶を淹れてくれないのか?」 セブが聞いてきた。あれからセブは水出し紅茶がお気に入りらしい。今まで不味いのを飲ませすぎたからかもしれんなー。セブごめん。本当にごめん。 「持ってきてるよ。後で温めよう――ところでさ」 私は体を捻ってセブと目を合わせた。セブの暗い目が私を見つめ返す。 「セブ、私に言ってないことあるでしょ」 セブの瞳が揺れた。いくら閉心術を会得していたとしても、こういう小さな変化までは隠しきれていないんだ。 「セブ、前から足引きずってるでしょ。それも、ちゃんとした治療もせずに放ってる。違う?」 セブが目を背けた。それが答えだった。 セブが言うのを待とうって、見て見ぬふりをするのも嫌になったんだ。今日は火傷まで追加されちゃって、私はもう我慢できんよ。 「セブ。家族なんだから、秘密にしないで……心配なんだよ」 「レイノ……」 罰が悪そうに顔をしかめるセブの足の間からスルリと降りた。ポッピーに言えない理由も分らんではないんだ、自分こそ薬のエキスパートだという自負があるからだろうってね。でも、ポッピーは治療のエキスパートなんだってことを忘れちゃいけないよ。セブは作る側なんであって、使って治療する側ではないんだから。 「ね、医務室に行こうよセブ」 今の私じゃあ、セブのための薬を調合できる環境がないから。だからせめて、医務室で治療されてよ。 |