試合を終えて、私は御馳走を用意したんだ! と騒ぐアメリアたちからほうほうの体で逃げ出した。食ったら吐く。私は薬品の匂いで満たされた室内で丸くなっていた。


「凍りついて死にそう……」


 まだ暖かいうちには楽々できた就寝前のセブ訪問も、寒くなってくると道のりが苦痛だ。保温魔法があるからそれをローブにかけているんだが、隙間から忍び込む雪の女王が色々と凍らせてくれるので、やる気や元気もクールダウンだ。ダウンってか後退して良いのはデコリーンズのデコだけだよ。


「レイノ、来い」


 私はレポートの採点してる様子を椅子に座り膝を抱えて見ていた。と、セブが手招きしてきた。ううう、動くとローブの隙間から冷気が……!

 もぞもぞと動いて、セブに寄った。足の間に座り、丸まる。


「暖かいー」


 この萌えシチュにも心がホットになりました。うへへ。


「今何年生の採点してんの――五年生か」


 これ、懐かしいなぁ。ほっほう笑いのデブ教授が良く分らん説明をして、皆が試験で間違えた範囲だ。もちろん私とヴォルディーは正解したけど。私は予習知識があったし、ヴォルディーはあのジジイの解説を信頼してなかったから自分で調べてたしね。


「分かるのか」

「うん。セブがいない時はずっと本読んでたし、これ五年生の教科書に載ってたしね」


 家にあんまりセブがいなくて良かったと思う。私、ニヤニヤ笑いながら魔法の勉強してたからね。憧れのハリポタワールドで魔法のお勉強だよ? 喜ばない方がおかしい!


「ふむ、ではこれは分かるか?」

「これはこの薬草が十七グラム足りないね。十三と三十の書き間違いだろうけど、これじゃあ失敗か、できても胃を溶かすよ」


 つまり使い物にならない。飲むな危険!――失敗と同じ意味だった。


「では次はこれだ」

「右に二回、左に一回半でしょ。鍋は銅製じゃなくて錫製にしなくちゃ」


 いつの間にかレポートの採点を手伝うことになっている。あれ、おかしいな。


「そう言えばレイノ、今日は紅茶を淹れてくれないのか?」


 セブが聞いてきた。あれからセブは水出し紅茶がお気に入りらしい。今まで不味いのを飲ませすぎたからかもしれんなー。セブごめん。本当にごめん。


「持ってきてるよ。後で温めよう――ところでさ」


 私は体を捻ってセブと目を合わせた。セブの暗い目が私を見つめ返す。








「セブ、私に言ってないことあるでしょ」





 セブの瞳が揺れた。いくら閉心術を会得していたとしても、こういう小さな変化までは隠しきれていないんだ。


「セブ、前から足引きずってるでしょ。それも、ちゃんとした治療もせずに放ってる。違う?」


 セブが目を背けた。それが答えだった。

 セブが言うのを待とうって、見て見ぬふりをするのも嫌になったんだ。今日は火傷まで追加されちゃって、私はもう我慢できんよ。


「セブ。家族なんだから、秘密にしないで……心配なんだよ」

「レイノ……」


 罰が悪そうに顔をしかめるセブの足の間からスルリと降りた。ポッピーに言えない理由も分らんではないんだ、自分こそ薬のエキスパートだという自負があるからだろうってね。でも、ポッピーは治療のエキスパートなんだってことを忘れちゃいけないよ。セブは作る側なんであって、使って治療する側ではないんだから。


「ね、医務室に行こうよセブ」




 今の私じゃあ、セブのための薬を調合できる環境がないから。だからせめて、医務室で治療されてよ。


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