３ 以前と同じように練習は面倒……大変で、肉なんて食ってないに等しい私には大変だった。学業的な面でのリーチがあるからこそ練習に集中できるのであって、これがただのトリップだったりしたら私は死んでたと思う。 「もうハロウィンね」 感慨深く言うアメリア。その通り時が経つのは早く、入学から二カ月が過ぎた。朝からだだ甘いパンプキンパイの匂いが城内に満ちている。う……吐き気がしそう……。 「アメリア、どうしよう」 隣を歩くアメリアに肩を落としつつ言った。 「どうしたの、レイノ？」 「パーティー出たくない」 「何言ってるの」 味も甘けりゃ匂いも甘い。どこへ逃げても追ってくるお菓子の香りに胸焼けして倒れそうだ。これで会場入りしてみろ、死ねるな。 「出たら死ぬ。出なくてもそろそろやばい」 私の足はだんだんと重くて――もう授業受けたくない。おうち帰りたい。 「一体どうしたの、レイノ？ 死ぬって？」 「これほどハロウィンの匂いがきつかったのかと、今更ながらに思い出してね」 そういえば一年目のハロウィンとクリスマスは匂いで酔った。二年目は部屋に引きこもり、三年目からはヴォルディーに負ぶわれて一応参加した。嫌な記憶だ。 「何を言ってるのか良く分らないけど、良い匂いよね。夕食が楽しみだわ」 外人の鼻は一体どうなってるんだ。みんなは浮かれ騒いでるみたいだが、これほど憂鬱な日は他にないな……。 夕食の席での唯一の気休めは蝙蝠ちゃんたちだった。セブがジジイを殺したあと変身するのが蝙蝠なんだよね――烏じゃないのが残念だ。私にとっちゃ、セブは蝙蝠というより烏なんだよ。ハウ○の動く城っぽい感じで。 ネズミみたいな顔した蝙蝠を数羽捕まえて弄り倒す。モコモコ、ふわふわ……！ 駄目だ、これはクセになるなぁ!! 羽毛も柔らかいがこれはこれでハマる！ 丸い小さな黒の瞳が愛らしくて、お持ち帰りしたくなりますゲヘヘヘヘ。 「レイノ、食べないの？」 アメリアやパンジー、ドラコが立ち替わり入れ替わり来る。私は蝙蝠の腹毛に頬ずりしながら有り難く思いつつも断った。良い友人を持てたと自慢に思うねぇ……。 そろそろクィレルが来る頃なんだが、それまで寮に帰れないし暇だ。私はワクワクとクィレルを待った。ニンニク臭で授業時は毎回気が遠くなるが、クィレル自身は嫌いじゃないんだよね。ドモリ続ける演技力とか、感嘆に値するよ。 大広間の扉が、私の期待を裏切らず勢い良く開いた。青いを通り越して白い顔をしたクィレルがこけつまろびつ転がり込んできた。やったネ！ 「トロールが……地下室に……お知らせしなくてはと思って」 ゼイゼイと息を切らしながらクィレルは教師席に近寄り、校長にそう呟くと崩れ折れた。あれが演技だって言うんだから凄いもんだよ。 クィレルの尋常でない様子に静まっていた生徒たちは騒然とした。各地で悲鳴が上がり、俺こそがトロールを倒す！ と血気盛んな歓声までした。お馬鹿さんか。ジジイがそれを爆竹で鎮め、監督生に寮に先導するよう命じた。遠くからパーシーらしき居丈高な声が聞こえる。 「レイノ、行きましょ！」 ドラコは真っ青だ。パンジーと握ってる手が死人みたいに白い。でも私はセブと一緒に帰ると首を振った。ちょっとしたいことがあったから。 「分かったわ。ちゃんと五体満足で帰ってきてね！」 パンジーが頷き、私は人の流れに飲まれない様壁際に寄った。みんな、自分のことに必死で気がつかない―― 「久しぶり、ヴォルディー」 赤毛でチビの少女が、見知らぬ黒髪の女ととすり替わっていたことに。 |