「……」

「……」


 私は鈴緒の姿のままだったから、ただいまセブ! だなんて言えるはずがなくて。日本土産の鎌倉半月と政治家の人形焼き片手に、セブと沈黙の再会をすることになった。――私、セブの先生だったんだよね? 『私』がセブと会ったのは今朝だけど、セブが『鈴緒』と会ったの十数年ぶりなわけで。セブと『鈴緒』がどんな関係だったのかよく知らない私はただセブと見つめ合った。


「久しぶりですね……小早川教授。今日はどういったご用件で?」

「あー、んーと」


 どうしよう。――どうしよう。回れ私の脳みそ! こういうときの言い訳くらい瞬時に弾き出すのだ! 宙を見つめて言い訳を考えてると、盛大な溜息が聞こえた。


「――なんて言うと思いましたか!! 一体何年雲隠れしていたと思うんですか! 一方的に『梟の世話お願いね』などという手紙と梟を押し付けてきたと思ったらそれから手紙が届きさえしないし!」

「み、身に覚えがないなぁ」


 実際そんなことした覚えないし……だってこれからの私がすることでしょ? 未来のことで怒られても。


「何を下手な逃げ口上を。全く――十二年ぶりに会ったと思えば姿の変わらない……いや、逆に若返ってはいませんか?」

「日本人の神秘だよ。それに年齢のことを女性に言うのはマナー違反だぜ☆」

「それは失礼」


 十二年ねぇ……なら私が生まれるあたりで消えるわけね。てか若返ってるのは当たり前だよ。










 文句を言いたいだけ言ったからか、セブは勝手に家にあがりこんでいる『私』にフと微笑んだ。お茶を出しますからどうぞと居間へ案内してくれて、手ずから紅茶を淹れる。前に送った純銀の時計がきっちり三分計った。


「貴女がいらっしゃらない間に娘が出来ました。今はどうやら出掛けているようですが」

「へぇ、そんな甲斐性があったんだね」

「違います――養子ですから」

「ふぅん」


 優しく笑むセブは本当に幸せそうで、その表情が私を考えてくれてるからだと思うと私の胸もほっこりと暖かくなる。


「リリーとポッターの娘で……リリー似の良い子です」


 あの腐れポッターに似なくて良かったと笑いながら話すセブ。父親の顔したセブは本当に色っぽいというか恰好良くて、バツイチ子持ち男がモテる理由が分かった。


「それと貴女の著書のせいかは知りませんが、レイノ――娘は親日家になってしまいましたよ」

「良いじゃない親日家。そんな親日家の娘さんへお土産を上げようじゃないか、ほら人形焼き」

「貴女の持ってくる菓子はいつも不思議なものばかりで食べ方に困るのですがね」

「娘さんに聞きなよ。きっと知ってるから」


 なんか、自分のことを他人として話すのは難しいなぁ。私自身のこととして知ってることと教えられて知ったことがごっちゃになるってか。


「貴女とレイノを会わせたいですね……あの子のことです、あの小早川鈴緒が私の恩師だと知ったら驚くことでしょう」


 何をした。何をしたんだ私。え、何か偉大なことでもしたの? 毛が抜け〜るシリーズ作って、ゾンコのいたずら専門店に色々といたずらグッズ売って、遊び歩いて、ヴォルデォーに絡んで、アブラカタブラの毛を抜いただけだけど。


「――私、何かしたっけ?」

「ハァ……それが貴女の長所でもあるのですがね」


 真剣に聞いてみたけど何も教えてもらえなかった。ちょっと後で本調べてみよう。


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