12


「鈴緒はあいつが好きなの?」

「あいつどいつ?」

「日向」


 片平さんが焼き魚の身をほぐしながら言った。いやあ、萌えの対象ではありますがね、範囲外っつーかショタコンの気分って言うか。


「好きだけど恋愛の意味でじゃないよ。気の置けない友達って感じかな」


 私は味付けのりをごはんにのっけて、ご飯を巻くようにして口に放り込んだ。朝ご飯はご飯納豆味噌汁漬物という素敵メニューで、お昼はそれプラス魚と大根の炊いたのが付いてきた。嬉しくて涙出ちゃうよ。ビバ和食! 生きてて良かった本当に!


「日向って先輩から人気あるから気をつけてよね。親しい女友達だなんて認めないわよ、日向のおっかけ達」

「うわぁ、そりゃ傍迷惑なファンだねぇ。本人の許可は取ってるんだろうか」

「取ってると思う?」

「うんにゃ」


 陽菜ちゃんがくすくすと笑う。お椀を置いて口元を押さえ、上品に笑った。ああ、良いところのお嬢様。


「どうしたの、陽菜?」

「だって、おかしかったのよ。普通おっかけが本人に許可をもらいに行く?」

「特殊なおっかけとか、パパラッチとか」


 パパラッチって、本人が許容してるから仕事にありつけるんだよね。てか自分で言ってて何だけど特殊なおっかけって何だろうか。


「それって、付き合ってくれなきゃ自殺してやるとか言って脅したり?」

「おお、きっとそんな感じ!」


 納得してる私に顔をスッと近づけて、陽菜ちゃんが囁いた。


「それじゃ狂信者ね――でも大丈夫よ。これを言うと先輩方の目が怖くなるんだけど、正輝と私、婚約してるの」


 だから正輝がファンと付き合うはずがないのよ、と。……それはそれは――明治の世には華族でしたか。江戸の世にはどこの藩を治めていらっしゃったのでしょうね、それとも旗本とかでしょーか。驚きのカミングアウトだわさ。


「あら、日向ってもう売約済みだったの」

「私は陽菜ちゃんと日向君が婚約してたことより片平さんのその表現にこそ突っ込みたい」


 片平さんはさして興味もなさそうに言って、実際興味ないんだろうな、ご飯を再開した。


「二人が二人で良かったわ」

「で、卒業したら同棲するの?」

「せめて同居って言おうよ片平さん」


 片平さんよ、貴女の発想はもはや中学一年生のそれじゃない。私もまあ……人のこと言えないんだがね☆ ハハハ☆


「するわ。花嫁修業もしなくちゃいけないしね。それで、十八歳になったら結婚するの」

「やっぱり」

「するんだー」


 いつの時代の話だよ……明治大正の世じゃないんだぞ? 花嫁修業ってオイオイ、アレでしょ、『こんなこともできないのですか、全く!』『申し訳ありません、お義母さま』みたいな。姑の嫁いびりみたいな。


「陽菜ちゃん! 気をしっかり持って、頑張るんだよ?」

「えっと、良く分らないけど頑張るわね?」


 肩に手を置いて応援すると、陽菜ちゃんは首を傾げながら頷いた。お姉さん心配だわ。


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