8 「花園鈴緒です。これからよろしくお願いします」 養子になったということで、私は日本名を名乗ることになった。わざわざ新しく日本人らしい名前を名乗るより前世の名前使う方が楽だし、晴れて私はまた『鈴緒』になった。なんか、久しぶりすぎて慣れないかも。 「日向正輝」 私の後ろの席の少年――まあ、今の私より年上なんだけど――がそっけなく言い、自己紹介は続く。 「前川陽菜です。よろしく」 何人か間に入って、キュルンとしたちまっこい美少女が自己紹介した。うおお可愛い……前世の私もあれくらい可愛ければもっと人生楽しかっただろうに。 「最後になったが、担任の麦山です。皆も知ってる通り副塾長も麦山だけど、俺は『むぎやま』、副塾長は『ばくざん』だから。そこんところ間違えてくれるなよ」 なんて紛らわしいんだ。漢字で書いたら区別がつかないクオリティ。今度からムギムギと呼ぼう。お菓子っぽいけど。 「――で、自己紹介で分かった通り、中等部から新しく仲間が入った。花園塾長の娘さんで、鈴緒さんだ」 私の席は偶然にも前から一列目で、それもムギムギの真正面だった。体を捻って後ろを振り返り頭を下げる。日向君は寝てた。 「今までヨーロッパにいたそうで、少等部から来ることはできなかったんだと。塾長曰く強いからな、負けたら承知しねーぞ」 なんか、いらん説明が付加されてる気がするのは気のせいだろうか。おうちかえりたい。 「じゃ、今日はこれで解散」 プリントを配られるということもなく、第一回ホームルームは終わった。終わったと思ったら、私の周りを囲むのは好奇心旺盛な女の子たち。 「花園さんってヨーロッパで暮らしてたのね」 「ヨーロッパのどこ? フランス? イギリス? ドイツ?」 「どうして日本に帰ってこれなかったの?」 「片親が外国人なの? ていうか、塾長に娘がいたこと自体が謎なんだけど!」 「日本語上手ね、習ったの?」 などなど、かしましいことこの上ない。私はできるだけそれに答えた。聖徳太子の耳なんて持ち合わせないもん。 「うん、イギリスでこの冬まで暮らしてたよ。帰ってこれなかったというか、私は塾長の養子なんだ。縁あって引き取ってもらえることになってね、日本語がしゃべれるのは向こうにいたときからだから不便はないよ」 英語を教えて! とか養子なら納得だわ、とかいう声が上がる。ていうか、男子ははじき出されて蚊帳の外って感じだ。可哀想に。まあ、周りに群れられても邪魔だけど。 「――チッ! 女子、ウゼー」 この分厚い防波堤はどうにかならんものかと内心思いながらも表面はにこやかに対応してたら、寝てた日向君がボゾリと呟いた。コラコラ、そういう言い方したら、女の子に目の敵にされちゃうよ。 「なによ、日向! あんた自分の自己紹介の時以外はずっと寝てただけじゃない! 解散って先生が言ったんだから、早くどけば良かっただけでしょ?!」 「ウザ……やかましいんだよ、だから嫌なんだ。女って」 日向君はガタガタと席を立つと、教室の後ろの扉から出て行こうとした。 「あ、待ってよ日向君」 私は日向君に声をかけた。 「何だよ」 「これからよろしく」 きっと彼は私が困ってると思ったんだろう。分かりにくい子だけど、ある意味分かりやすすぎるとも言える。なんてツンデレなんだ! 知り合ったばかりの今はきっとツンだけなんだろうけど、そのうちデレがでてくるはず! 「――じゃな」 ほかの女の子たちが文句を言う中、これは好感触だと私はこっそりニヤっとした。ツンデレ着物少年って良くないか? |