分身を二人にして、体を動かしてる方がへばればもう一人が交代するというローテーションを組めば大分時間が稼げるだろう。分身の術を見せれば校長がニヤリと笑んだ。満面の笑みのはずだったのに背筋が凍った。





「重心がぶれておる! もっと腰をおとす!」


 校長の授業なんて他の生徒は受けられないし、恵まれてるとは思うんだけど――つらい。きつい。泣きたい。今さっき山登りしてここに来たばっかりだよ私っ?!


「次は馬上居を三時間」

「う……うーす!」


 分身がヒンヒン泣きながら馬上居をしているすぐ横の部屋で、正座して勉強。寺子屋かっ。


「初めだし、漢方をするかな」


 陰陽道、天文学、易学等々の授業。これって陰陽術じゃないのか? これじゃあ後天的陰陽師トリップになっちゃうよ。――漢方なら魔法薬学に使えるだろうけど。

 学ぶことが多すぎて、セブが入学するまでに修学できるか不安だ……。














 マークという人とレイを探し始めて一週間過ぎ、二週間過ぎ、遂には一月が過ぎた。マークは諦めたような顔をしてる。僕はでも、諦められない。


「ごめんな、セブルス? 俺にも仕事があるしさ、もうこれ以上は探すのに時間を割けないっていうか――な」


 言葉を濁すマークに僕は頷いた。だってどうせ他人だもの、レイを本気で探すのは僕しかいない。惚れたとか愛してるとかそんなレベルの繋がりじゃないんだ、僕とレイは何よりも強固な『血』の繋がりを持ってるんだから。父さんと母さんは『血』が繋がってないからあんな簡単に壊れてしまったんだ……双子という『血』で、僕たちは誰とよりも深く、強く、繋がってるんだから――

 レイは僕がちぐはぐな格好をしてたら服を着せてくれたし、お腹が減ったって言えばご飯を作ってくれた。ねえレイ、僕がもう頼らないって言ったからいなくなったなら、ねえ、帰ってきて。僕、君が必要なんだ。父さんより、母さんより、君は僕と『血』が同じなんだから。


「――え?」


 近くの公園で、魔力を感じた。よく二人で一緒に行った公園だ。レイはいっつもパンとチーズを持って来てて、僕はリスにパン屑をあげてた。もしかして、と思って走る。でもちょっとした違和感。……レイはもっと、集中して研ぎ澄まされた魔力だった。







「チュニー、見て見て! こんなこともできるのよ!」


 少女がテニスボールを宙で回転させていた。もちろん触っていない――魔法で動かしているのだから。


「ねえ、だから種明かししてってば、リリー。見てるだけじゃつまらないわ」

「種なんてないわよ。念じれば思った通りになるじゃない?」


 レイはいなかった。いたのは赤毛に緑の瞳をした少女で、自分やレイと似た年頃のようだ。セブルスは失望した。淡い期待を裏切られ、レイと見つけた秘密基地に転がり込んだ。



 誰にも邪魔されない場所で一人、塩辛い涙を流す。自分は、レイを捨ててしまった――ゴミ箱の中身は、どこに行ってしまったのだろうか?


[] | []

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -