桜花魔術屋敷。ここは日本唯一の魔法学校で、他のヨーロッパ系魔術とは一線を画すものだという。


「わたし等はお前さんの学んできたように杖を振ることはないんじゃ。ありゃああくまで補助具であって、絶対必要なもんではない。これは分かるかい?」


 住む家がないと言ったらここは全寮制だから気にするな、ここに住めと言われた。屋敷の主――つまり校長は英語で話した。手の中の扇がゆっくりと揺れている。


「先生、私日本語分かるから日本語で話してくれて全く構わないよ」

「おや、そうかね。なら日本語で言おう。日本では杖は使わん。それは分かったかね?」

「うん」

「魔力の制御を知らない子供は杖なしで、無意識のうちに魔法を使う。つまり純然たる『魔術』というのは身一つで行えるものでなければならん」


 校長先生――花園尺太郎というらしい――はそう講義した。来年度の入学までに基礎知識をつけてくれるという。自力でここを見つけ出せる者はほぼいないに等しいそうで、だいたいが親に連れられてここに入学するのだそうだ。だから何の補助もなく見つけ出せた私は面白い観察対象らしい。楽しませてくれるなら学費はいらんと言われた。

 どうやら日本の魔術学校は六歳で入学らしく、私はつまり三年分遅れることになる。外界で言う義務教育期間と合わせているのだとか。でも九年間も日本に引きこもってられんからなぁ、また分身の術で勉強二つを同時進行かな。


「魔術は言葉、行動、全てに宿る。神に奉納する神楽舞とてある種の魔術と言えよう。だから」


 花園先生は扇をパチリと閉じた。扇の先から桃の花びらが吹雪く。


「これが魔術」


 淡雪のように溶けて消えた花びらを見つめる。


「学びたくなってきたかね?」

「はい、校長先生。よろしくお願いします」


 私は頭を下げた。本格的に勉強が始まる――










 レイはどこにもいなかった。僕は、レイがいつもどこで何をしているのかも知らなかった。走って走って、日が傾いて沈みかけるそんな時間まで探し回った。


「マーク、お前のせいじゃないって」

「でもさ、レイノさん辞めちゃったよ……」

「お前の告白を嫌って逃げたなんてあるはずないだろ? 告白だって分かってももらえてなかったんだから。レイノさん鈍感だし」

「馬鹿、お前それ禁句!」

「う、うわああああああんレイノさん――!」


 二十代も半ばらしき四人が、酒に悪酔いしたような仲間の男を囲んで宥めていた。今、レイノと聞いた。これは……。


「すみませんっ!」


 セブルスは彼らに声をかける。心臓が脈打って、知らず大声になった。


「ん? どうした、坊主。もう暗いから早く家に帰れよ?」

「い、ま……っ」

「どうどう、落ち着け。な?」

「今、レイノって言いませんでしたかっ?!」


 だいぶん背の高い彼らを見上げた。宥められていた男が呟く。


「レイノさんそっくりだ……」

「レイノを――姉さんを探してるんです! 僕が酷いこと言ったから、だから」



出てっちゃったんだ。




 その日はマークと名乗る男の部屋にその場の全員で転がり込み、夜を徹してレイノを探す会が開かれた。活動は明日から。


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