グリンゴッツの口座には、セブが入学して卒業する以上に貯まっている。羽目をはずして博打にでも走らない限り余裕がある。――が、私も入学するとなるとちと心許無い。分身を一体増やすべきだろうか? 心労で倒れそうだから却下だな。


「せめてトビアスがちゃんと働いてくれてたらなぁ」


 トビアスは浴びるように酒を飲んで、DV。アイリーンはうつ病でどうにもならん。こんな環境だったらそりゃあな、セブも捻くれて育つに決まってるな。私がここにいるだけましか。セブが健康優良児なのが証拠だよね。




「今日はシチュー♪」


 私の料理は美味しいと近所でも評判だ。まあ、味覚が日本人だからね。昨日買った人参と冷凍魔法で保存してた牛肉が主な具だけど、玉ねぎとかも入ってる。そーだ、今度グラタン作ろう。ドリアも良いな。

 ところで、最近セブに避けられてるんだがどうしてだろう。寂しくってお姉ちゃん泣いちゃうよ。萌えがなくっちゃ死んじゃうよ。ご飯もしょっぱくなっちゃうかもしれないよ、涙で。


「セブ、ご飯ですよ」


 そういう商品があったよねー。


「――う、ん」


 二階は安全地帯だ。だってトビアスがいるのは一階で、アイリーンは居間でうつってることが多いから。セブの部屋の扉をココンとノックして言えば、どもった返事が返ってきた。どうした、姉ちゃんに相談できないことかい?! もしかしてリリーに会ったの?!


「はい、セブ。今日はシチューだよ。他におかずないけど」


 日本人なら平気で一緒に白米並べるんだけどね。


「有難う――日々の糧を」

「日々の糧を」


 いただきます代わりの祈りを捧げてスプーンを持った。この頃会話が少ない。嫌われたのかなぁ……どうして嫌われたんだろ。寂しいことこの上ないよ。


「ねえ、レイ……レイノ」


 シチューを食べ終えて、セブが逡巡しながら口を開いた。


「何、セブルス?」


 この日、私はスネイプではなくなった。
















 僕は知っている――いや、知ってて黙ってたんだ。レイが、僕のためにいっつも疲れて帰ってきてるってこと。お父さんがお金を家に入れてくれてないのにご飯がある理由を。

 物心付いた時、レイはすでに大人だった。双子の姉さんのはずなのに誰よりも大人で、父さんや母さんよりも僕の親だった。僕はずっとそれに甘えて、楽に暮らしてたんだ。


「レイノは――僕とは関係ないんだから。だから僕に構わないでっ!」


 貧しい我が家に、ホグワーツの学費が出せるはずがない。僕だって分かってる。奨学金を受けるかしないと、入学金から危ういことを。でもレイは頭が良いから絶対奨学金を取れる。僕がいたらレイの邪魔になる。だから。


「レイノなんか、どっか行っちゃえよ!」


 レイは消えてしまった。僕が見た覚えのない純金製の鍵を置いて。グリンゴッツの鍵だった。名義は僕で、ホグワーツに七年間通える以上の貯金があった。レイは消えてしまった。僕はレイに謝ることすらできずに――数ヶ月後、赤毛の少女と出会う。


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