後→前→後


 イギリスの深い森の奥――ホグワーツ魔法魔術学校は人里離れた、そんな場所にある。


「ねえ、本当に来るの?」


 リュックサックを背負った赤い髪の少女が顔を歪める。


「うん。そうだよ」


 黒い鞄を手に提げた男は少女の嫌そうな顔を咎めるでもなく微笑んだ。少女と全く違う黒髪を揺らし、彼は足を進める。黒と赤の二人は森を出て――石造りの城に飲み込まれた。












 ハロハロー、みんなの可愛いレイノちゃんです。え、何? 自意識過剰? うるさいなこんくらい良いじゃん。私は今やさぐれてるんだよ!

 スーちゃんに誤って殺されて、新しい生は死んでは生き返っての繰り返し。「私に都合の良い」世界に飽きて異世界旅行を始めて――数百年目かね? 細かい年数はどうせスーちゃんに訊けば分るから覚えてない。旅行にも飽きたし元のハリポタ世界に帰ろうとしたのは良いけど、スーちゃんが体調不良で調節を失敗しちゃったんだよね。そのせいで案内役のスーちゃんとは離れ離れになっちゃったし、着いた世界もちょっと違ってた。

 今の私がいるのはハリポタのパラレルワールド――つまりセブと私が親子じゃない世界。今の私もジェームズ・ポッターとリリー・エヴァンスの娘だし双子の兄にハリーがいるし、ヴォルディーが十年ちょっと前までイギリスを殺人事件の国にしてたけど。根本的なところが違うんだよ、私の根幹が! 何でBさんが私のパパしてるわけ、セブに拾われる気満々だった私の期待を返せ!


「ねぇねぇレイノちゃん、今度の職場ならレイノちゃんとずっと一緒にいられますね!」


 Bさん――Bパパは私がホグワーツに入学の年になったのを機に今までの仮屋を出た。地元じゃ腕の良い医者として重宝されてたって言うのに、私が学校に行ったら毎日会えないじゃないかとゴネまくったあげく、いつの間にかホグワーツの辞令を持ってた。


「大丈夫ですよレイノちゃん、パパがずっと近くにいますから」


 安心してください、と言われて逆に怖くなる。父親じゃなかったらストーカーか性犯罪者か……捕まっても仕方ないような気がする。


「パパ、それじゃ危険な人だよ……」


 これが行きすぎた熱苦しい愛情だと分ってるから何も言わないけど、普通に反抗期のある子だったら「お父さん気色悪い」レベルだよ。


「問題ないですね、僕の愛情はレイノちゃん限定ですから」

「あ、そう……」


 ちなみにBパパは医務室の補助職員として入るそうで、時には魔法薬の作成やなんやでセブと関わることもあるらしい。


「そうだ、レイノちゃん。学校ではハリー・ポッターとセブルス・スネイプという人に近付いちゃいけませんからね」

「え、なんで?」


 この生では私はBさんが(何故か)引き取った。セブとの関わりなんて全くないんだけど、どうして警戒するんだろう?


「レイノちゃんとそっくりな人が昔いたんです。この二人は特にその人に執着していたので、面影があるとか何とか言われて誘拐されるかもしれません」

「ふぅん?」


 リリーのことだろうか。セブはリリーに恋してたし、ハリーは写真で両親の顔を見ることになるし……暴走されちゃかなわん、ってことか。ハリーはともかくとしてセブはそう暴走するとは思えないんだけどなぁ。まあパパももう心配してることだし、一定の距離を保っておきますか。そのうち縮める気満々だけどね!


「ハリー・ポッターとセブルス・スネイプね。覚えとくよ」


 ――私は知らない。この世界がパラレルワールドじゃないことを。





 Bはこっそりと微笑んだ。彼の養女が首を傾げていることに満足して。

 目覚めれば巻き戻されていた世界。梟が運んできたのは千九百八十一年十月三十一日の日刊予言者新聞で、愕然としていた僕の元にやって来たのは『僕の隠れ家を知らないはずの』先輩。その腕の中にはレイノちゃんがこんこんと眠っていて、僕は分ったんだ。

 先輩も僕と同じなのだと。

 話してみれば先輩の持つ記憶と僕の持つそれはほぼ同じ時期に終わっていた。つまりレイノちゃんが死んだところで。掌から零れ落ちていくレイノちゃんに絶望したあの時で。


「私が育てれば同じ結末になるだろう……だから、頼む」


 僕は何も言えなかった。結果的にレイノちゃんを殺した先輩が憎いのか、それとも闇の帝王が憎いのか、それさえも分らなかった。


「ずっと一緒ですよ、レイノちゃん」

「うーん……うん」


 うげぇ、という顔を隠しもせずに頷くレイノちゃんに僕は微笑む。

 ――今度は、君を死なせはしないよ。


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