死喰い人のみぞ知る


 剃刀が日光を反射し煌めく。襲い来るそれから逃げまどいつつ、アブラクサス・マルフォイはこうなった原因を思い出していた。







 それは先日のことだ。彼の主の友人であり、この世に存在する誰よりも強いと彼自身思っている女――鈴緒・小早川はこんなことを言った。


「アブラカタブラ、禿げて見えるよね……じゃあもういっそのことだし、スキンヘッドにしちゃわない?」


 今までにも『毛が抜け〜る』やらの被害を被ってきたのだ、もう嫌だ――そう思ったのも無理はない。泣きそうになりながら断る言い訳を考えていれば、彼の主が助け舟を出してくれた。


「鈴緒、つい数日前にオリオンも禿げさせたらしいな。オリオンがここ三日ほど部屋にこもって出てこない。『抜け〜る』はもう使うな……」


 ただ禿げさせるだけなら良いのだが、彼女は魔法で元通りにできないようにするから性質が悪い。


「それにその言葉は何度も聞いた。何度駄目だと言えば分るんだ」

「何度でも。だってさぁ、ヴォルディーってば外に出ちゃ駄目だってうるさいし、本と戯れるのも飽きたし、他に何もすることないじゃない」


 ソファの背もたれに寄りかかってだらしない恰好をし、鈴緒はアブラクサスをその双眸にロックオンした。


「ターゲット・ロック・オン☆ とか。超疲れた。気分的な問題で。暇だよ暇だよーありえんくらい暇だ!」

「俺様との会話を楽しもうというつもりはないのか?」

「皆無」


 ヴォルデモートが手ずから淹れた紅茶を飲まないまま冷たくし、鈴緒はハアとため息を吐いた。


「まあ、今回は見逃してあげよう」

「これからも止めろ」








 ――と、鈴緒は釘を刺されていたはずなのだが。どうしてか今日、鈴緒は偶然か必然か手にした剃刀を手にアブラクサスを追いかけている。


「鬼だぞー、捕まえたら禿げにしてくれるー」


 哀れな通りがかりの死喰い人らはすれ違いざまに髪を剃られ悲鳴を上げている。真ん中だけ一直線に剃られた者には『逆トサカ頭!』などと歓声を上げた。


「う……うわぁぁぁぁぁっ!!」

「ひょーっほっほっほ!」


 アブラクサス・アルフォイが果たしてどうなったのか――それは、死喰い人のみぞ知る、ということで。


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