気付けよ


「臥せる少女の治療費にー、貧しい家計は燃え上がりー♪」


 ミラの一曲を歌ってノリノリで作業を進めれば、ヴォルディーが胡乱な目を向けてきた。な、なんだよ?


「何の歌だ、それは」

「それは秘密です♪」


 某魔族の真似をしてみる。胡散臭い笑顔も付くよ。


「ハア……で、何を作ってるんだ」

「それは秘密です♪」


 実はハゲ促進薬なんだが、ヴォルディーが聞いたら怒る気がする。アブラカタブラに使うの明らかだしね。


「鈴緒……」

「なんじょね?」

「いや、何でもない」


 杖を構えつつ振り返ったら黙った。


「上りは険しき山道も転がり落ちるはまさに刹那、刹那ー」


 真理だねぇ、本当に、全くもって、その通りだ。上り坂よりも下り坂のほうが体力を使うように、人生の下り坂もまた恐ろしい程に身包みを剥いでくれる。

 昨晩、ヴォルディーの執務室から生産された死体を思い出しながら、私は警告する。歌に乗せて。






 ヴォルディーが気付いたかどうかは知らんけどね。


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