呪文な名前


「アブラカタブラ♪」


 鈴緒は偶然ここにいた、不運なドブネズミに杖を向ける。そして唱えるのは魔法の呪文。杖先からは緑色の光線が走り、ドブネズミはカクンと力を失い伏し倒れた。


「これは……」

「私流☆ 死の呪文だよん。良かったね、アブラカタブラ。これからずっと、私に呼ばれる度に君は不安に駆られるんだよ。『もし、鈴緒・小早川が杖を構えていたら?』ってね」


 ニッコリと笑う顔は普段通りで、吐き出された毒には不釣り合いだ。


「私は死んじゃあならない。会うまでは。だから殺されるのも絶対却下。殺そうとした罰だよ、ストレスでそのデコが後退するよう願ってる」


 高い位置にあるアブラクサスの額を突き、鈴緒は薄い笑みを浮かべると背を向け歩き出した。








 ふと彼が地面に目を落とせば、光の失せたねずみのそれとかち合った。背筋にひんやりとしたものが触れたような感覚に、アブラクサスは青ざめた。


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