ゲロれ


 学校が始まり数か月が経ち、私は体重が落ちた☆ こんな痩せ方はしたくなかったんだけどねぇ。


「ねえ、鈴緒。君、日に日にやつれていってるよ」


 だんだんとリドルの人気が上昇してきた今日この頃。リドルに取り巻きはできても友人の影は全くない。リドル君、友達いない子ですかー?……私も人のこと言えんけど。


「仕方ない。これも運命だったのさ」

「良く分らない。ねえ、ちゃんと昼食と夕食を食べなよ。このままじゃ君、食事が目の前にあるのに餓死するよ?」


 魔法で、前世で十四歳だった時の姿に変身してる私だけど、周囲はそれより更に背が高い。元々体が薄い日本人の私は、神秘的な美少女というより、薄幸の病人だろう。体が弱いせいで背が低いんだろうとか思われてるに違いない。違うっつーの。


「大丈夫さ、リドル。どうにかしないといけないとは分ってるんだが、解決策が見つかってないんだ。策が見つかるまで私は草食動物になるから」


 カボチャジュースは濃厚すぎて飲めない。デザートのはずのリンゴを齧りながら頭を振った。自分で料理を作れるなら台所を見つけるべきだが、見つけても和食の材料があるわけでもなし。取り寄せ? 金もないのに?


「解決策が見つかるまでって、君、これから見つけられる当てはあるの?」

「ないね、今のところ」


 あったらすぐに解決してますよ。これで解決! とかならんかね? ミラクル起こすマジカル少女とか現れないかな――私が魔法少女だったわ。


「鈴緒、僕は謝らないからね」

「へ、何が?」


 私の口の中に肉を放り込み、リドルは私が飲み込むまで口と鼻を押さえた。周囲が騒然とする。そりゃそうだ。あの『温厚』で、『親切』で、頭の良いリドルが、友人である私を窒息させようとしているのだから。




 私は辛抱たまらず飲み込んだ。舌がヒリヒリする。香辛料がきつい。


「飲み込んだね?――先に言った通り、謝らないから。鈴緒は食べなさ過ぎなんだよ!」


 周りの生徒がリドルのご乱心(傍目には乱心したようにしか見えんかっただろう)の理由が分かったのか納得したような顔をした。ちょっと待て、私が息苦しかったのはスルーか?


「うぇ……」


 飲み込んだ肉塊が食道を通る感覚に気持ち悪くなる。久しぶりの肉だったから拒絶反応が出そうだ。


「ほら、水」


 リドルから渡された水を勢い良く干し、私はコンチクショウに杖を向けた。


「え、鈴緒?」

「謝らないなら――そうだな、それだけの報いを受けるべきだと思うんだよ、私は」


 杖から迸った薄い黄色の閃光はリドルの胸を直撃する。


「ちょっと、何の呪文を――ウプッ!!」

「ふはははは、分らないか、分らないだろうね? 牛胃の呪いだよ」


 牛というか草食動物は、一度飲み込んだ草を何度も口の中に戻して、咀嚼する。

 青い顔のリドルに、でも私は優しく言った。


「私の体を心配したからこそだってことは分ってるから、ゲロるだけに止めておいた。いってらっしゃい」


 リドルは口元を押さえてトイレに走り、私は周囲の――恐怖に染まった視線を受けながら紅茶を胃に流し込んだ。







 仕返しは速やかに、かつ優雅にがモットーだよ。


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