四歳になり、クリスマスがやってきた。誕生日プレゼントは魔法薬学の本で、クリスマスプレゼントもきっとそうだろうと予想される。もう、セブってば魔法薬学大好きなんだからっ☆ と心の中で突っ込んで、寝起きで爆発した髪を梳かすのも後回しに包装紙を破る。

 一週間程クリスマス休暇として一時帰宅したセブルスはまだ寝ている。だって今は早朝も早朝、午前四時だもん。プレゼントが気になって気になって、つい起きちゃったのだ。


「くるくまわーる、くーるくまわーるっ」


 歌いながら勢いよく紙を取り去れば、やはり本。ふはははー、セブたんってば、分かりやすーい! 題名はなになに、『困った!に役立つ呪文集』……。

 魔 法 薬 学 じ ゃ な い !?

 予想を飛び越えた! 目次を見れば、『手の届かない高い棚、アレが取りたいのに! という時に使える魔法』とか、『鍋が反抗期になった時、上下関係を確認させる魔法』とか、『子供が苛めに遭っている時仕返しに使える嫌味な魔法』等あった。何だこれは。超愉快じゃ。余は満足じゃ。


「早速使おう、使っちゃおう。ああセブ愛してる!」


 杖なんて持ってないけど、私は杖があろうがなかろうがモーマンタイ。だってトリップ特典があるんだもん! 今日くらいは羽目をはずして魔法を使ってしまえ!
















 そのまま私は闇に落ちていくのかと思った。でも上から私を追いかけるように走った紐が私を捉え、引っ張り上げる。そして気が付けば、さっきまで見ていた夢の残滓もないふやけたような世界に私と兄ちゃん、二人が立っていた。手を見れば自分の輪郭線も曖昧で、まるで水中にいるみたいだ。


「すまん、間違うた。あんたはまだ死ぬ予定やないんや。入る夢を一つずらしてもーた」


 兄ちゃんは黒い髪をかき交ぜるように掻いて、ペコっと私に頭を下げた。私は気にしないようにと手を振った。こんなファンタジーな夢を見られただけで大満足なんだから。


「気にしなくて良いよ。こうして被害もなかったわけだし」

「いや、実は」

「え?」


 兄ちゃんはテヘっと頬に指を当てて言った。


「もう、あんた死んどんねん」


 鋏で体と魂の繋がりを切ってしまったのだと、やっちゃったゼ! と親指を立てた。


「なななななななな、何しちゃってくれたのお兄さん!?」

「失敗してもーたのや。これでも長年死神やっとんのやけど、アホやな、俺」


 でも大丈夫! と死神こと兄ちゃんは言った。


「何が大丈夫なの? 蘇れるとか!?」

「いや、それは無理や」


 流石に『リ・ボーン!』は無理、と答える兄ちゃん。


「問題ありまくりでしょ!? どうしてくれんのこのバイアグラ!」

「ば、バイアグラ!? 全国の不能に悩んでる男性諸君に謝りーや!」


 霞のような兄ちゃんの服を掴み揺さぶる。私より背の高い兄ちゃんを見上げながら何度も揺する。ガックンガックンって音がしそうなくらいで、ヘドバンもかくやと言わんばかりだ。


「あんな、生き返らせられはせんけど転生ならさせられるねん。どっか行きたいところあらへん?」

「え、本当!? ならハリポタワールド!」



 私は被せる勢いで答えた。セブルスとかセブルスとかセブルスとか会いたい。リーマスも良いよリーマスも。でも一番は純粋な少年の心を持ち続けた陰険教師に会いたい。


「わ、分かった。そこまで熱く語られても正直引くから、ちょい黙り? で、何か他に注文とかある? あるんやったら聞くで。こっちの不手際やし」

「チート的最強設定」

「うっわ、あんたホンマ引くわ……」

「うるさい。失敗死神が」


 一歩二歩後ずさる兄ちゃんを無視する。


「もちろん、努力すりゃ何でもなんとかなるというタイプのね!」

「がめつぅ! 他に注文はないやん――」

「体質と成長速度は日本人のままにして。ランドセル背負った高校生顔の自分なんて想像したくない」


 大学のドイツ語の先生が、『バスの中でハンサムな青年を見かけたと思ったらランドセル背負ってた』という話をしたことがあった。その時は笑い話だったけど、わが身となると悲劇だ。だが断る!

 それに外人って肌理が荒くて肌がちょっと汚い。それは嫌だ。折角日本人として肌理細かく生まれてきたのだ。女の子としてそれは譲れない。


「ヘイヘイホー。じゃ、送るで?」

「もう一つくらい注文させてくれれば良いのに」

「あんた我儘やなー」

「間違って殺したの、誰だっけ」

「――万物流転、万物流転。さっきの俺は今の俺やない……冗談や」


 ジト目で見てやれば兄ちゃんはため息を吐いた。私の勝利だよね。


「私の世界との繋がりがほしい。ネットを覗けるように」


 そしたらウィキ君でいろいろと調べられるからね。ド忘れしても安心だ。


「なんちゅうチートや。こんながめつい子見たん初めてや。……ほな、逝ってらっしゃい」


 私は手を振る兄ちゃんに手を振り返し、私は墜ちて行った――。











 ――というわけで、私はチート的に魔法が使える。ふっはっは、一回読んだ魔法なら苦労なんてすることなく使えるぜ! チートだし、杖という補助具がなくても問題ないし。この会話を思い出したのはあのハロウィーンで、自分で願ったんだったっけ、と納得した。流石私、転生するならハリポタ世界でセブとにゃんにゃん☆ という欲望が、うむ。どこで間違ったのか親子になっちゃったけど。


「じゃあこの、手が届かない時にっての使おうかな」


 料理の時楽じゃないか。良いね、便利だね!

 その日以降、セブルスは料理が危険だと言わなくなった。いや、元々言わなかったんだけど、ハラハラと見なくなったというか。

 ついでにダンブルドアから貰ったのはサンドバック抱き枕という商品で、独特の重量感が癖になると人気らしい。ダンブルドアも愛用しているとカードに書かれていたので、使うことなく玄関前に吊るした。時々殴っているのは秘密だ。


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