Japanese MANGA


 イギリスっていうかヨーロッパの水は硬水だから、水周りは気をつけないとカルキが固まってそこもここもカルキの塊ということになっちゃう。つまり、窓もせっせと掃除しないといけないわけで。


「こーゆーとき、どうしてマグルのまちにすんでるのかっておもうね」


 盛大に舌打ちしてスポンジを握る。食器用洗剤を含んでるから泡が指と指の間からもこもことこぼれた。ああもう、魔法を使いたくても使えないのって本当に不便……。家の中なら魔法を使っても問題ないけど、家の外となると誰が見てるか分んないから手作業にならざるを得ない。ていうか、こんな幼児の一人暮らしが珍しいからみんなが私を見てくるんだよね。――家政婦を追い出したのは間違いだったかも。でもいない方が気楽だし、どっちがよいかと言えば今の生活の方がマシ。


「ああもう、めーんーどーいー」


 三歳時の身長では届きようのない高さにある窓へ椅子を引きずり、そうしてやっと窓掃除ができるというこの面倒さ加減。本当に魔法使いたい。魔法を使えたら指差すだけで何でもできるって言うのに。

 椅子によじ登りスポンジで窓をキュッキュと拭き、ゴムベラで水気を落とす。そこを乾いた雑巾で拭えば終わり。でもそれだけの作業のために椅子を引きずり回らなくちゃいけないんだからなぁ。


「あーちーちーあーちー、もえてるんだーろおかー」


 それは太陽が、したことなんだ。なにもかも全部太陽が悪いのだ、きっと。掃除が面倒なのもセブが休みなのに帰ってこれないことも。いや、これはジジイのせいか。


「じじいちねー、ちにさらせー」


 調子を付けて歌うようにジジイを呪う歌をうたい、椅子を元の位置に戻して家に戻る。ここは硬水だけじゃなくて空気が汚いから窓が汚くなりやすい。四日に一度窓掃除をさせられる身にもなれってんだ。窓を見ればその家が分るって言うもんだから、こうして頻繁に窓掃除をしないと掃除の出来ない人間が住んでると思われちゃうんだよなぁ。ああ、面倒くさい。セブ帰って来てー、せめて窓掃除だけはしてー。

 だいたい、何でセブはこんな可愛い娘を家に置いたまま帰ってこれないんだ。ジジイが引き止めてるってことは知ってるからセブを責める気は全くないけど、何でジジイに邪魔されなくちゃいけないんだ氏に晒せジジイ。畜生め。今度会った時は爽やかにしねばいいのにを歌ってやる。


「……はぁ」


 見上げた空はどんよりとして、日本で見たような快晴は滅多にない。こっちで言う晴れと日本で言う晴れはレベルが違うと考えた方が良い。この天気が皮肉な英国紳士を育てました、とか誰かが言ったら信じそうだよ。でもある意味日本人とイギリス人って似てるよね。同じ島国だからかな……中国での日本の蔑称である『日本鬼子』を萌えキャラ化して悪口言う気を失せさせる国日本と、持って回った皮肉で痛いところをちくちく刺すイギリスと。ある意味痛烈な皮肉だもんなぁ、萌えキャラ・日本鬼子。『ハッ、テメーらの悪口なぞ屁でもないわ。せいぜい萌えて自分の愚かさを晒すが良い』と言ってるようにも取れるし。


「あー、あー……。そうだよ、漫画読みたい……」


 日本の漫画を三歳児が手に入れられるわけがないし、イギリスの漫画カラフルだけど読んでて疲れるし、日本人の感性に合わないし。

 どうせカラーで描くなら漫画世界の歴史みたいなの作ってくれれば良いのに。なんでないんだろうか。漫画なら読みやすいし記憶しやすいと思うのに。これはあれだろうか? 私に描けという神の啓示だろーか?


「どうせ暇だしなぁ……」


 出版社にもってったら売れるかな。いやでもヨーロッパじゃまだ白黒の漫画を受け入れる下地がないし、無理だろうか。日本人が白黒漫画を普通に読めるのは元々水墨画があったからだって聞いたことあるからなぁ――色つき絵の文化しかないところに白黒はショッキングすぎるかもしれない。いや、だからこそ私がタイフーンを巻き起こすべきなのかもしれん。きっとそーだ。そうに違いない。よし、描くぞ!








 三日で飽きた。


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