追憶は近く、忘却には程遠く 夕日色の髪を見るたびに、エメラルド色の相眸がフラッシュバックする。だが振り返る少女の瞳はハシバミ色で、膨らんだ期待が萎むのを自覚する。ああ……。 「セブ、本買って!」 引き取った少女と、夏休みのダイアゴン横町を歩く。レイノはアイスやお菓子を欲しがらないし、我が侭も言わない心得た子だから、私は『子育ての苦労』というものを感じたことがない。毎日家に帰ってこられない仕事だ、それを喜ぶべきなのかもしれないが、少し寂しいのも確かだ。 引き取ってすぐ戯れに教えた閉心術をいつのまにやら完璧に身につけていることに気付いたのは、いつのことだろう。閉心術がこの子を天真爛漫なばかりの子供でいさせなかったのかもしれないと思うと、考えなしだった数年前の行動を悔やむ。 「ああ、どの本だ?」 レイノの手の中にはもうすでに杖がある。決して早すぎるとは思わない――まだ七歳だが、この子は完璧に魔法を操って見せるのだから。 「この本と、この本と、この本ー」 杖をククイと振って棚から引き出したのは卒業論文の参考文献に良く使われる本で、私はレイノが修学レベルに達していることを知った。 「よくこの本を知ったな。だがこの本ならホグワーツの図書館にある。今度借りてこよう」 「あ、やっぱり? セブの本棚になかったから欲しいなって思ったんだけど、ホグワーツの図書館なら当然あるよね」 見上げて来るハシバミ色。私はクシャクシャした黒髪の、眼鏡をかけた男を思い出した。 「――ああ。夏休みが終わったら、ウモーに持たせよう」 「うん!」 手紙を交わすのに便利だろうと、数年前私は梟を買い与えた。レイノは極東の言葉だという『ウモー』と名付け、その意味はファーのことだという。なるほど、ファーの手触りがした。 「羽毛にお土産を買ってこーよ、セブ。何が良いかな?」 「お前は何が良いと考えているのだ?」 「梟って雑食でしょ? ネズミとか」 「自分で捕まえて食べているだろう、クッキーにしたらどうだ」 「じゃあそうする」 丸い頭は夕日色で、エメラルド色の彼女を思い出させた。落ち着いたアルトが耳に甦る。『セブ』と。この手を引く少女が、どうして彼女ではないのかと、そんなことをフと考えた。頭を振る。レイノこそ、両親を失ったのだ、どうしてそんな不謹慎なことを考えられる? 私の手を引きまっすぐ前を向いて歩くレイノの表情を、私が見ることはついぞなかった。 |