ずっとこのままでいて


 マクゴナガル教授のレポートは毎回面倒――難解で、今日明日資料を調べたからといってすぐ完成するようなものじゃなかった。まあ私は経験として前の二十年があるから楽なんだけど。とっくに卒業した奴が一年生レベルのレポートで唸ってたら問題だと思うよ。


「うーん……」

「ドラコ、手伝おうか?」


 羊皮紙一メートル分の七センチしか埋められていないドラコが、ウンウンと情けない唸り声を上げていた。可哀想に、そのまま禿げれば良いのに。

 寮の談話室には勉強に励む者やそれを横目に紅茶を楽しむ者、とまあ、どこの寮でもあるだろう光景が広がっていた。図書館で勉強しないあたり、プライドが高いことが窺えるね。身内には見せられても、他人には努力してる姿を見せたくないんだろうな。


「すまないレイノ。手伝ってもらえるかい?」


 初めは断っていたドラコが遂に音を上げた。羊皮紙は二十センチまで埋まっている。ウンウン、普通の子ならそこまで埋めるのに三時間はかかるからね。ドラちゃん頭が悪いわけじゃないんだよねー。


「OKOK。でもちょっと頭を冷やそうか。紅茶飲む?」

「飲もう――レイノは淹れないでくれ。淹れなくて良い。僕がするから」


 ドラコは立ち上がりかけた私を制してティーセットを取りに行ってしまった。クラッブとゴイルはまだ夕食の残飯整理もどきをしてる。残したらゴミになってもったいないかもしれないけど、あの二人が食べつくす必要はどこにもないと思うんだ。

 てか、ティーセットなんてわざわざ取りに行かなくてもアクシオ使えば早いよドラコ。……って、まだ習わないか。


「レイノは勉強は出来るのに、紅茶は淹れるの下手よね」


 アメリアが本から顔を上げた。あんた宿題はどうした。ついでに本の題名は「気に入らないあ奴めを半殺しにする呪文集」。――アメリアは本当にスリザリンだったわ。


「そうかな? セブは喜んで飲んでくれたよ?」

「スネイプ教授もお可哀想に……」


 アメリアが頭を振った。紅茶なんてどう淹れても同じにしか思えんのだよ。緑茶を出せ緑茶を。烏龍やジャスミンなら許せる範囲内なんだけどね。紅茶なんて茶じゃない、輸送作業中に醸されたから元の中国茶じゃないんだー! と叫んでも誰も相手にしてくれないだろうなー。今度水出しにチャレンジしてみよう。お湯は難しい。




「きっちりと三分計ってるのかい? 紅茶は時間も大切なんだぞ」


 ドラコが帰ってきて、茶瓶を温めながら言った。


「計ってるよ、一応」


 疑わしい、とう二対の目に私は胸を張る。要は、カップラーメンと同じ時間蒸らせば良いってことでしょうが。うむ、ラーメン食べたくなってきた。今度休暇を利用して日本に飛んでみようかな。チキンラーメン買占めよう。


「ほら、本当の紅茶とはこういうのを言うんだ」


 ドラコお手製の紅茶をグイっと嚥下する。味と薫りを楽しめと怒られた。そ、そこまで怒らんでもエエがな……。


「レイノは紅茶に対する愛情が薄いと思う」


 ドラコに怒られた……。だって私元々日本人だしさ、紅茶とは縁の薄い家庭環境だったのですよ? リプトン飲まないし、炭酸も飲まないし、コーヒーも飲まないし……飲んでたのは百%還元のジュースとお茶だけだったんだ。仕方ないんだ!


「紅茶をちゃんと淹れられなかったら馬鹿にされるわよ?」


 アメリアが眉をハの字にして言った。なんて面倒なんだイギリス。飯不味いくせに。


「それはヤダなあ、困った困った」


 そういえばヴォルディーが毎回手ずから紅茶を淹れてくれたのは私が下手だったからか? 今じゃ分らないことだ。四年になるまで質問は持ち越しかな?


「あ、夕日」


 スリザリンの寮は地下にあるんだけど、天窓から日光が差し込んでるから外の様子が少しは分かる。


「話を逸らすな、レイノ」

「逸らさせて」


 真赤な夕日が紅の光線を散らして、まるで私の髪みたいだ。


「レイノの髪みたいね」


 アメリアが私の考えてることを読んだみたいに言った。


「ああ。スリザリンの緑と良く映える」


 スリザリン大好きなドラコの言葉に、私はこの世界の母親を思い出した。エメラルドの瞳。









 私から彼女を思い出して欲しくないから、「私」の色はずっとこのままでいて。


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