星屑


 レイノも七歳になったことだし、そろそろ杖を待ってもよいかもしれない、と私は考えた。


「レイノ」


 夏休みもまだ当分あるし、一緒にダイアゴン横町に行くのも良いだろう。


「はーい、何、セブ?」

「ダイアゴン横町へ行く。杖を買おう」


 良いの?! と跳ねるレイノに頷いて、出かける用意をするように促した。自分も外出用のローブに着替えていると、私の部屋に用意を済ませたレイノが飛び込んでくる。


「セブ、行こう!」

「入る時はノックをしろ」

「堅いこと言わない!」

「礼儀だ、礼儀!」


 姿現しでオリバンダーの店の前に現れる。姿現し独特の、細いパイプに押し込められたような感覚が苦手なのだろう、レイノはうええ、と舌を出した。だが煙突飛行はもっと嫌いだというのだから他にしようがない。


「失礼する」

「おじゃまします」


 レイノを先に入らせて扉をくぐれば、埃と古い紙の匂いが鼻についた。こんなに杖ばかりあれば掃除も大変だろうが、空気の入れ替えくらいは出来るだろうにと思ってしまう。


「これはこれは、ポッ「Mr.オリバンダー。杖を選んでやってくれ」」


 忌々しいポッターの名前など、名字だけで苛々する。それにレイノには実父の名など教えていないのだ。こんなところでバラすつもりなど毛頭ない。


「分かりました、お嬢さん、杖腕は?」

「右です」


 宙に浮く巻き尺が腕の長さを測り、身長を測り、座高を測った。無駄なことしかしていない気がするのは自分だけだろうか、いや、皆この計測を無駄だと思っているに違いない。頭の長さがどうして杖の長さに関係するのか、理由があるのなら教えて欲しいくらいだ。






「難しい、フム、難しい……。では、これはどうかな?」


 ガラスは破砕し、杖の棚は引き出し全てが飛び出している。床に大穴が空いたのは何本前の杖だったか。


「バジリスクの牙にユニコーンのたてがみ。癖が強く振ると重い。闇の魔術と神聖魔法に向いている」

「正反対な癖なのね」


 闇の魔術と神聖魔法……正邪両方に向いているということか。癖が強いというよりはアクが強い気がする。レイノが『クロウ・カード!』とか言いながら杖を振り下ろした。カードがどうしたというのか。


「……おう」

「ブラボー!」

「ふむ」


 三者三様の反応をする。杖先からは流れ星のような輝きが噴射していた。


「星屑……」


 私はレイノの呟いた言葉に、声に出さず頷いた。


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