10 一人だけでも面倒なのに、何で面倒くさいのが二人になったんだろうか。 「マートル、いい加減ハッフルパフ寮に帰ったらどうかしら? きっとここより貴女に合ってるわ?」 「何よ、アンタ邪魔よ。鈴緒とは私が先に約束してるんだから! 親友同士を引き離すなんて最低ね!」 ミランダとマートルが口論を始めて五分ほど過ぎた。だんだんヒートアップして声が大きくなるんだけど、ここが図書室だってことを二人とも覚えてないんじゃなかろうか。 「二人とも黙ろうよ、追い出されるじゃんか」 「あらごめんなさい、鈴緒? この劣等生が邪魔なものだから?」 「あんたが邪魔なんじゃない、私と鈴緒の仲を知って嫉妬してるんでしょ」 謝ったと思ったらまた喧嘩を始めだした。人の話を聞け。 「まあ? どうして私があなたみたいなゴミ虫に嫉妬なんて? 思い上がりも甚だしいわ? だって私、鈴緒と五年間一緒に寝てるのよ?」 「ちょっと鈴緒! 貴女私ってものがありながら!」 待て、一か月前まで会話もなかった仲だっていうのに、何で不貞を責められなくちゃいけないんだ。てかミランダと同禽したことなんてないっての。胸倉掴んで振り回すな! 「いやいやいやいや待て、待つんだジョー」 「ジョーって誰よ」 「言葉のあやだから気にするな。私はミランダと一緒のベッドに入ったことはないしマートルとはまだ一月の仲でしょーが。どうして私が浮気をとがめられる夫の気持ちにならなくちゃいけないんだ」 マートルの手をやんわりと外しながら言えば、友情は時間を超越した概念なのよと言われた。は? 「出会ったのが昨日だったとしても去年だったとしても、友情ってものは堅いのよ」 「は、はあ……」 「何を馬鹿なことを言っているのかしら? やっぱり貴女は馬鹿だったのね? 友情はゆっくり育むものよ? 出会いという種が、時間と労力をかけることで花開くのよ?」 これは私もミランダに賛成したいところ――なんだけど、二人の喧嘩にさらに巻き込まれるから傍観を決め込もう。てか、ここが図書室だってことをいい加減に思い出してくれ。 「傍にいるだけの五年間よりずっと一緒にいる一月の方が密度も濃いし、私は貴女以上に鈴緒と仲良くなれてるわよ。だから邪魔、どっか行って」 まあそれはそれで一つの意見ではある。でも、休み時間ごとに突撃するのは本当に止めて欲しいなぁ。タックルに慣れた自分が怖い。鈴緒ちゃん困っちゃう☆……ヤベぇさぶいぼが。 「私、鈴緒と勉強会してるの。だからさっさと帰ってくれない?」 マートルが言った。――そう言うけどマートルちゃんや、君、ここが図書室だってことすっかり失念してないかい? マダムがいまにも来るんじゃないかって私はドキドキだよ。心臓が口から飛び出しそうだ。平和が欲しい。平穏も。 「なら私も鈴緒と一緒に勉強するわ? 貴女だけとだなんて鈴緒が可哀想だもの?」 いや、一人でいっぱいいっぱいです――とは、言えなかった。私フェミニストだから。女の子には優しいから。だから私が心労で倒れないうちに二人とも喧嘩を止めてくれ。きっと私、女の子には文句言えない。 |