『私、引き籠りの引き子ちゃん』と名乗ろう。これから私は素晴らしい引き籠りだ。俗世間の煩悩になんか興味ないんだぜ、だって私にはインターネットがあるからね!……煩悩の塊じゃないか。


「鈴緒、行かないの?」


 同室のミランダが聞いてきたけど、もちろん答えは決まってる。


「行かない」


 ミランダは私とは正反対にいそうな女の子だ。陰険かつスリザリン至上主義の変な子。成績は真ん中辺をうろうろ、容姿は真ん中辺をうろちょろ、可もなく不可もなく微妙なライン。純血だからきっと嫁の貰い手はある、はず。これであのヴァルブルガの遠縁というから変人は血筋かと納得する。ワンコの母ちゃんに関する表記は印象的で覚えてるんだよね……黄色い歯をむき出しにして叫ぶって、オリオンの女性の趣味って何だ。可愛い後輩ことオリオン&シグナスの将来が心配です。いや、シグナスはあんまり心配してないんだけども。あの子はあの子でなかなか強かで、人を見る目があるから。問題はオリオンです。


「どうして行かないの?」

「行ったらうざったいのがまとわりついてきて気疲れで死ねるから」


 食事の席に、休み時間に、蛙が大合唱するのだ。どうしてあんなデブと、クズと、ハッフルパフの劣等生と? あれは貴女に相応しくない、すぐ別れるべきです、云々。そりゃあ流されて友人になったさ? でもそこまで言われるとむかっ腹が立つ。ただでさえ朝食の時間は、朝っぱらから脂っこいモノ食わせやがってってイライラするから余計だ。


「オレンジジュース持ってきてくれると凄く嬉しい」

「体調を崩すわ? ハムサンドも持ってくるわね?」


 語尾にいちいち疑問符さえ付けなきゃもっと話しやすかっただろうに、ミランダは必ず語尾に疑問符が付く。くせなんだろーけど聞いてて疲れる。ついでに言うと、他の同室の子はさっさと起きて朝食に行ったんだけど、ミランダはわざわざ私を誘ってくれている。毎回のことだけど……ミランダって心の広さ半端ないね。でも私、君が他寮の子に因縁つけて絡んでる姿何回も見たことあるよ。どこぞのヤンキーかって思った。


『まあ? 人に当たっておいて謝罪の一言もないの? それとも言えないの? もしかして口がないのかしら? ああ、分ったわ? 貴女には口はあるけど頭がないのね? そりゃあそうよね? だって貴女ハッフルパフだものね? 頭がないからナメクジ並みの理解力しかないのよね? あらヤダ、そんなナメクジと私話してるのね? 独り言なんて寂しい人間のすることだわ? じゃあねナメクジさん?』


 とか言ってる姿を初めて見た時は正直ヒいた。字面だけじゃ分らないだろーけど、これでマシンガントークだもんだから押される。ミランダってこんな子だったんだって知って、スリザリン寮について半日くらい考えることになって――類は友を呼んだんだって考えることにした。まあ、私はその『類』にも『友』にも入ってるつもりないけどね!


「有難うミランダ、恩にきるよ」

「どういたしまして?」


 ミランダが出てから談話室まで降りた。ミランダの分の教科書を詰めたカバンと私のカバンを持ってソファでだらける。人の目がないのだ、だらけて何の問題があろうか、いや、ない!






「鈴緒、行儀が悪いよ」

「大丈夫、公式のパーティーには絶対出席しないから」

「はしたないよ」

「スカートの中身さえ見えなきゃ良いのだ」


 いかにも早寝早起きで、つい今しがた朝食を終えてきましたって風情のリドルンが、扉を開けて談話室に入ってきた。杖振ってステューピファイって唱えたらプロテゴって唱えられた。お返しにアグアメンティってきたからインセンディオを返して気化させた。まったくもう、ずぶ濡れになるところだったじゃないか。


「無防備な私に何をするやら」

「先に仕掛けてきたのって鈴緒でしょ」

「過去のことは忘れた。私は未来のみ見据えて生きるのだ」


 リドルンがため息を吐いた。失礼な。人は前進を忘れたら腐るだけだぞ!


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