図書館の棚と棚の間に影が一つ。その青年は自分の運の良さに押し隠しきれぬ笑いをこぼした。手の中には古い、しかし上手に保存されたおかげでしっかりと残っている一冊の手記。それは彼の寮の初代寮監であり、創設者のひとりであるサラザール・スリザリンの残した彼の記録。子孫にのみ読ませたかったのか、蛇語で『開け』と言わねば開かぬページにそれは書かれていた。秘密の部屋――サラザールのバジリスクについて。この学校に相応しくないものを除去するための怪物という、先祖からの贈り物。

 リドルは――ヴォルデモート卿はうっそりと笑った。小さな窓から入る光が背中を熱く焼いた。










「見事にないわね、レイノ・ホグワーツについての記述。そりゃあもう清々しいほどにっ!」

「まあまあ鈴緒、そう焦ることはないよ。まだ僕らは五年生だろう? あと数年あるじゃないか」

「思い立ったら即実行、時間を置いたら忘れるんだよっ!」

「それ、記憶力がないって言ってるのと同じだよ……」

「へえ、じゃあここなるリドルさんは記憶力のない女に四年連続で負けてるってこと?」

「ご免、怒らないでよ」

「怒ってないよ」


 探し始めて一週間で、意外と簡単に四人の手記は見つかった。鈴緒が試しに取り寄せ呪文を使ったら出てきたのだ。鈴緒が早々とグリフィンドールとハッフルパフの手記を読み始めたから、僕もアクシオを使い見つけ出すとパラパラ捲った。英語ではない――公文書然とフランス語で書かれている。

 何枚かのページが貼り付いている。他のページはそんなことないのに、十枚くらいだろうか、糊で固めたように剥がれない――そしてそれらの一枚目にはこう書かれていた“Say open”。


「開け」


 小さく唱えてみる。何も起きない。自分の血脈を思い出す。蛇語を操る人サラザール。


【開け】


 今まで頑なに人を拒んでいたページが、解れるように開いた。ページを捲りそれを読み進める。秘密の部屋のこと、そこに封印されている怪物バジリスクについて。これはきっと、かのサラザール・スリザリンが、他の誰でもない『僕』のために遺してくれたに違いない。何故って僕は彼と同じ意志を抱いているのだから。






 棚をいくつも隔てた向こうに鈴緒がいて、ここには僕がいる。鈴緒、君に勝る力を手に入れれば君は――僕のものになってくれるだろうか。君を、君の心さえも力で屈服させることができるなら、素晴らしいのに。


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