「レイノは泣かねえな! ハリーはわんわん泣くのに、妹の代わりに泣いてんのか、あ? ハリー?」


 シリウスがハリーの頭をガシガシと撫でる。日に日にクリアになっていく視界のおかげで、生後半年経つ頃には鬚面じゃないシリウスの顔を堪能できるようになった。ヤリチンと揶揄された人だもの、美形ではないですかはっはっは。これが十一年後にはどこぞの幽鬼になるんだなぁ。

 今私たちは親世代の腕の中だ。ハリーはシリウスに、私はリーマスに抱かれている。暗い過去を背負った貴方が大好きです、リーマス。でも陰険な教授のがもっと好きですデヘヘヘヘ。


「ハリーはじゃあジェームズ似かな? レイノは大人しいしリリーに似たのかもね」


 リーマスがほのぼのと微笑む。顔の傷が引き攣れる様に伸びるけれど、それもまた魅力の一つに感じられる。リーマス良いよリーマス。特にその傷が。


「レイノは本当にリリー似だしな」


 今日は実は、私とハリーの誕生日だ。一歳にもなれば将来の顔も想像できるようになってくるというもので、私はリリーそっくりの赤毛にハシバミ色の瞳をしている。目の色以外は、リリーが縮んだと言っても良いくらい母親似なのだ。

 これなら教授を落とせるかもしれない。武器は最大限に使うべきです母親だって利用します。年齢差さえどうにかなれば絶対に落としてみせる。

 ジェームズがティーセットを乗せた盆を手に居間に入ってきた。魔法で出せば良いだろうに、ケーキの用意をしているリリー見たさにわざわざ台所まで行ったのだ。どんだけリリーが好きなんだ、ジェームズ。


「二人とも、かけたまえよ。今日はハリーとレイノの誕生日さ! 今日くらいは仕事なんて忘れようじゃないか!」


 そういえばそうだった。今は夜の帝王、じゃなかった、闇の大魔王ことヴォルデモート氏が幅きかせてるんだった。ジェームズが能天気過ぎて抜けてた。てか一歳のハロウィンってもうすぐじゃないか? 死んじゃうかも、私死んじゃうかも。忘れずに私のことも守ってね!? パパママ!

 私が悶々と考えている内にピーターが訪れ、セブルスも来た。セブルスはリリーと挨拶のハグをして(ジェームズがすぐに引き剥がしたけど)、私をリリーから受け取って微笑んだ。ちょ、セブの頬笑み稀少価値高いよ! ああ、カメラがないのが悔やまれる! カメラがあっても持てなかったら意味ないけど、カメラ欲しい、カメラ欲しい!


「何でテメーが来てんだよ」

「ヒッ!」


 シリウス柄悪! リーマスが宥めてるのに応えてあげようよ、リーマスの努力が無駄になってて可哀想だよ! そしてピーターがシリウスの殺気に怯えてる。ああ、裏切り者になるとはいえ可哀想なピーター。


「名付け子の誕生日を祝いに来て、何か問題があるとでも?」


 文句を鼻で笑い飛ばしてシリウスを馬鹿にするセブルスに萌えた。大人の魅力な彼も好きだけれど、若い彼も素敵だ。真っ黒なマントにハアハアする。さあ、私よ。今までリリーとジェームズに隠れて練習した成果を見せる時だ!


「すぇぶ」


 凍りつきかけていた場が、別の意味で凍った。まあ、それを狙ったのだけれど。ギリギリと機械油の落ちたぜんまいのように顔をこっちに向けたジェームズが、あらあらと楽しそうなリリーが、音を立てて私を見下ろしたセブが、口をあんぐりと開いたままのシリウスが、目をまん丸にしたリーマスが、おどおどとピーターが、私を見つめた。


「今、レイノ『セブ』って言った……?」


 呆然としたジェームズの声。はっはっは、セブを苛めて悲しませた罰が下ったと思いたまえ。私はパパよりもセブの方が好きです。ぞうさんは苦手です、でも、きりんさんはベリーマッチ好きです!


「すぇぶー」


 私は、私に出来る最高の笑みでセブルスを見上げた。――ん? セブルス君、顔が赤くってよ? 私から頑張って顔を逸らしているけど、耳まで赤けりゃバレバレでしてよ?


「レイノの初めての言葉は『パパ』って決めてたのにー!」


 ジェームズが泣き出した。この頃「パパだよー」ってウザかったのはやっぱりそれが目的だったんだな。煩いから無視してたけど。

 その日は泣くジェームズとそれを嘲笑うセブルスという、あまりない情景が広がったのだった。ついでに、セブルスから私を引き剥がそうとするから思い切り抵抗してやった。ふはははは!


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