入学して数か月が過ぎた。めっきり寒くなって、外から吹き付ける冷たい風が体温を奪って去っていく。熱を返せ!


「寒い……私凍死するんだ」

「凍死しないよ」


 保温魔法をかけたマントを羽織っても、足元から這いあがってくる冷気に背筋がブルブル震える。北海道と緯度は似たようなものらしいが、私からすれば死ねる寒さだ。本州の南の方でも、冬の夜には凍死者が出るんだぞ!


「死ぬよ、死んじゃう。暖炉が恋しい、談話室帰りたい」


 セブの家で暮らしてる間はヒッキーやってたから、寒くなればさっさと暖炉に火を灯してた。でも吹き晒しの廊下が延々と続くホグワーツが暖かいはずがなく、さっきからリドルにしがみついて暖をとってる。


「ホラ、行くよ鈴緒」

「ああ、リドルの鬼、悪魔っ! こんな寒い中この廊下を歩くなんてよく出来るなっ!」

「鬼でも悪魔でもなんでも良いよ。鈴緒は寒がり過ぎなんだよ。慣れてしまえば気にならないさ」


 罵っても、最近リドルは平気でスルーするようになってきた。成長したのね、お姉さん嬉しくないわ。


「ふえーん! 寒いよー、寒いよー、凍え死んだらリドルの七代先まで祟ってやるー」


 ペイっとリドルのローブの中から追い出された。仕方ないな、と三歩歩いたけど、寒くてまたリドルに潜り込んだ。


「七代先って、なんでまたそんな数字なのさ」

「適当」


 もぞもぞと背中をよじ登り、張り付いた。はたから見れば二人羽織りだな、コレ。


「ちょっと鈴緒、重い!」

「な?! レディーに対して何を言うか! こういうときは世辞でも『羽のように軽いね』って言うんだよ!」

「羽のように軽い鈴緒、邪魔だから降りて!」

「誰が降りるか! 紳士なら淑女を連れて行け」


 リドルはほかの女の子には紳士的な応対をするってのに、私の扱いは酷く雑だ。杖を握るグリップ部分で殴られたこともある。ついでにその時は周りに誰もいなかったから、リドル暴力少年説とかは出なかった。狙ってやったんだろうがね。


「連れてけーテケテケーテケテケー、お前の下半身を置いていけー」


 テケテケって妖怪いるよね。


「下半身を何に使うのさ?」

「自分に接着するの」


 異性の下半身だったらどうするんだろう? それでもくっ付けるのかな。


「じゃあ足が四本になるね」

「いいや、二本だよ。自分の分がないから奪うんだ」


 たしか電車に轢かれて下半身がどっか行ったんだよね。で、這いずり回って下半身を求めるんだ。「置いてけー」って。他人のを盗る前に自分のを探せば良いと思うよ。







「ふうん……」




 リドルは私を背負ったまま、何か考えているようだった。何について考えていたのかは――数年経った後になって分かるんだが。










 時間は平穏に過ぎていく……

 たとえリドルが、ホークラックスを作ることを密かに決意し、闇への道を歩き始めていたのだとしても。


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