初めて(肉眼で)見る大広間の星空はきれいで、わざわざ天文台に上って天体観測する必要ないんじゃなかろうかと思った。こんなこと考える新入生は私だけのような、若い勢いに乗れない、精神年齢三十代という越えられない壁みたいなのを感じる。


「その様子だと大丈夫みたいだね」


 隣に立つリドルが安心したように言った。声に感情が出てるつもりはないんだろうけど、ちょっと嬉しそうだ。おやまあリドちゃんそんなこと言ってくれちゃって、おばちゃんは嬉しいですよ!


「うん。脅す必要なかったみたいだ。許してくれないならゲイってバラすぞって言うつもりだったんだけど」


 リドルが目を剥いてダンブルドアを見やった。ジジイは組み分け帽子の横でニコニコ笑いながら立っている。何度も私の顔とダンブルドアの顔を往復する視線ににやりと笑う。


「それ、本当なのかい?」

「信じたくなければ信じなくても良いよ」

「いや――信じよう」


 目を閉じてウィキウィキって唱えれば、私の視界は向こうの世界のネットに繋がる。電波系じゃないよ、受信してるけど! 言語不明瞭とか行動が尋常な感じじゃない人じゃないんだ、私は! 違うぞ、違うんだからな!

 閑話休題。ウィキ君からリンクで、ローリング氏によるネタばれのページに飛べた。ダンブル、バイですって! 秘密握っちゃった☆ ぬふふふふ、ぬふふふふのふ。私はぜってージジイの手の中で踊らされてやらん。せいぜい謀略巡らせてろ、粉砕してやるぜはーっはっはっはっは!

 と、そんな内緒話をしているうちに帽子が歌いだした。毎年違う歌だというからどんなものか聞く。













 ――何でロック調で歌ったのか謎だわ。この調子じゃあ来年はヘビメタか?





「アーノルド・マーク!」


 ジジイが名前を呼び始めた。日本人の平均的成長速度を基準にすると、アーノルド君とやらは十七にしか見えない。大きいね! 本当にありえねーな!


「アスキス・ジャック!」


 みんな大きいねぇ。日本人が小さいんじゃないんだ、外国人がデカいんだよ? 中年顔の大学生とかおかしいだろ、この老け顔共め。


「リドル・トム!」


 本当にリドルの名前って平凡だよね。そこらへんに埋没しそうだ。マールヴォロだけが浮き上がってる感じがする。リドルは私に手を上げてお先にと言うと、さっさと椅子に座ってしまった。緊張してるの隠してるってモロバレよリドルン☆


「ザハロフ・リチャード!」


 Zまで来た。てか私以外の全員が終わった。みんなの目が痛いわ、これが芸能界で生きるってことなのね、ええ、私やってみせるわ! とか馬鹿な想像、いや、妄想? をして乗り切ろうと頑張る。これ、精神的に辛いですよ。もしかしてジジイ、初めからそのつもりで……? なんて陰険な奴なんだダンブル! 未来の薬学教授より質が悪いぞ!


「ここで、とある少女を紹介したい。極東の国日本からやってきた留学生がおるのじゃ。鈴緒、ここへ」


 うわあ、やり口汚ぇ!


「初めまして、私は鈴緒・小早川と申します。この度は名のあるホグワーツ魔法魔術学校に入学できたことを嬉しく思います。まだイギリスは不慣れですので、よろしくご指導いただければ幸いです」


 ローブをつまんでペコリ。――ああ、なんて見事な挨拶なんだ! 不慣れなんて嘘だけど、こう言っておけば困った時人に頼りやすいだろう。頭の中は計画で一杯。でもおくびにも出さん。第一印象は大切だからね。


「では、座りなさい」


 ジジイに言われるまでもなく椅子に座った。帽子が私の顔をすっぽりと包む。思うんだが、この帽子は大きすぎないか?


「フーム……読みにくい。もう少し見せてくれんかね?――勇気もある、知性も申し分ない、自分の虚像を作る狡猾さもある……ハッフルパフ以外のどの寮にでも君は行けるだろう」


 つまり、私にはハッフルパフみたいな優しさがないと言いたいのか。なんかムカつくぞ。


「よし、決まった。君の寮はここだ――スリザリン!」


 頭の中で組み分け帽子をどう拷問するか考えていたからか、私はスリザリンに決まった。アレマア、リドル君と同じ寮じゃありませんか。これは私に頑張れと言いたいのかな? リドルが闇街道突っ走って「You shall die!」とか言いながら哄笑するのを止めろと?




無理だろ。







「よかったね、鈴緒。一緒の寮だ」

「良いんだか悪いんだか私には判断つかないよ」


 席に着けば「君は純血?」とか聞いてくる奴がいたから知らないのです、親はいませんのでーとか適当に答えておいて、リドルの横に腰を下した。これから七年間、凄く不安だよ。


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