晩飯はカレーだった。母上の愛情がこれでもかと籠った、蜜柑ピール入りカレー。酸っぱくて涙が出た。一緒に入っていたグリーンピースまで苦辛くて、家族全員で母さんを責めた。

 実はこれで二度目の酸っぱいカレーで、前回も蜜柑ピールが原因だった。食べたようで全く腹に入らなかった夕食の後、一番風呂にはいって、明日の宿題をして、ネサフして寝た――だけだったのに。


「初めましてぇ」


 私の夢に、どうしてか見覚えがあるような顔で黒髪に糸目の兄ちゃんが現れた。全体的に輪郭線はどこかぼんやりとしていて、長身痩躯にも見えれば中肉中背にも見えた。でも、これだけははっきりとしている――兄ちゃんは、巨大な銀色の鋏を持っていて、それを私の足元に差し込もうとしているのだ。


「ほな、サイナラ」


 足元に差し込まれた刃は紙のように地面を切り裂いて、その下の漆黒の闇を開いた。何も見えない無限の闇が足元に広がっていた。浮遊感。


「え」


 私は兄ちゃんを見やった。兄ちゃんはニコニコとしていて、だけど、私をじっと見つめたと思ったら、慌てたように目を見開いた。あ、目、茶色い。


「間違うた……!?」


 その言葉を頭上に聞きながら、私は闇に落ちて行った。








 エコーのかかった声が聞こえる。うぉぉん、うぉぉん、と反響した音が耳を打って凄く不快で、自然と眉間に皺が寄る。一体何なんだ? 私は動きの悪い瞼を持ち上げた。瞼が重い……。


「リリー、リリー! 目を開けたよ、可愛いよー流石僕の娘だね!」


 ぼんやりとした視界に眉根を寄せて音源を探す。焦点を結べる距離に、黒い髪にハシバミ色の目の男……こいつ、響いて聞き取りにくかったけど、リリーと言いませんでした? なら旦那はジェームズだねっ☆

 それにしても。どうしてこんなに視界が不便なんだろうか? 妙に声はエコー掛かって聞こえるし、まるで赤ん坊になったみたいっ!……まさかね、まさかねー。


「ジェームズ、そんなに大声出したら泣いちゃうわ。おはよう、私たちの可愛い赤ちゃん」


 視界の端に現れたのは赤い髪の女性。ぼんやりとしているが、緑色の目をしている――と思う。はっはっは、これで苗字がポッターだったら最強だね。魔法とか使ってたらもっと最高だね。てか私はやっぱり赤ちゃんか。そうか。で、ハリーはどこへ行った?


「はあー、僕はリーマスにこの子の名付け親になってもらいたかったのにな」


 私の頬を指で突きながら、ジェームズが呟いた。え、本当にこれ魔法界? 信じちゃうよ、本気にしちゃうよ?


「言ってたじゃない。男の子は貴方の、女の子は私の友達に命名してもらうって」


 だからむくれないでってば、とリリーはジェームズの肩をポンと叩いた。


「セブルス、素敵な名前付けてくれたでしょ?」


 魔法界だ。まごうことなく魔法界だ。もしかして私、ハリーポジションになり替わり転生? 嬉しくないよ。生き急がされるうえしなくても良い苦労をさせられそうだし。


「ね、レイノ?」


 どうやらレイノというのが私の名前になったらしい。よろしく、お母さん。一年と三か月だけだけど。――こんなことを考える私って薄情なのかな?




 ハリーはいた。どうやら私が妹のようで、ハリーはジェームズに「妹を守るんだぞ」と言い聞かされている。黒髪の緑の瞳をした赤ん坊に気付いた時は万歳三唱したよ。頑張ってねお兄ちゃん。


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