欠伸を噛み殺しながら荷物のカートを引く。今は朝の八時で、入学を控えて睡眠時間のサイクルを整えていた私だけれどやはり眠かった。乗り場に人の姿はなく、私の引くカートがガタガタと騒音を出すばかりだった。



 どうしてこんな早くに乗り場――キングス・クロス駅9と4/3番線にいるのかといえば、セブのせい、いや、ジジイのせいだ。生徒の乗ってこない時間帯を指定して、生徒には話せないことを会議するらしい。どうせ賢者の石についてだろう。学校ではクィレルがお留守番してるらしいし。さっさとターバン剥いちゃえば良いのに。そしたらセブが面倒なことせずに済むんだ。

 ハリー達は確か、後ろの方のコンパートメントに座るはず。どこらへんなのか細かいことは分からないけれど、とりあえず後ろに行っておけば正解だろう。鳥かごの中の羽毛が暇そうに鳴いた。






 適当なコンパートメントに入り、通路側の端っこに腰かけた。羽毛が構えとうるさいが気にしないことにして、私は目を閉じた。

それが旅の始まりとも知らず……



















 廊下を駆け回るガキの足音に目を覚ます。窓の向こうの乗り場は人で溢れ返っていた。


「こんにちは。寝ていたから勝手に失礼させてもらったよ」


 私の対角線上に誰だかが座っている。ハリーじゃないっぽい。何だ、ハリーはどこだ、ハリーを出せ! ぼやける視界に目を擦り再び見れば、黒髪に赤い瞳の少年。――赤い瞳?


「僕はトム・リドル。よろしく」

「よろしく?」


 どういうこっちゃ。今のご時世、わが子に例のあの人な名前を付ける親がいるはずもなし。赤いおめめはサラザールの血の証ではありませんでしたっけ? 外を見た。ウィーズリーっぽい一家は見当たらない。アウトォ!


「どうしよう、本当にどうしよう」


 親ビン、てーへんだ! 底辺だ! 時間もトリップしちゃったみたい。正面の彼がヴォのつく彼なら、学校にはアレ、じゃなかった、彼、ダンブルなドアがいるはずだ。変身学の先生してるはずだよね。私がこの姿じゃ、未来とか過去とかに問題が出てくるんじゃないか?

 へ、変身だ。変身しかない。別人になりすますしか術はない! ついでにこの時、トムでマールヴォロなリドルンが挙動不審な私に声をかけていたらしいが気付かなかった。それより切実(っぽい)ことがあったのだ、仕方ない!


「てか入学許可証なんてないし。大丈夫かよ自分、大丈夫だよ自分☆ ジジイは脅せばなんとかなるだろ」


 トムが目を剥いていたなんて知らない。知らねえよはっはっは!


「男装? 服がみんな女ものなのに? 却下。ふけ薬――ストックなんてねーよ」


 とりあえずレイノ・スネイプとはかけ離れた容姿にならなくっちゃ。でもそんなすぐイメージなんて出来る――丁度良いのがあるじゃねーか。


「テ○マ○マヤコンテ○マ○マヤコン」


 転生前の私の容姿になーれ☆ 急に(変な呪文とともに)姿の変わった私を、トムは質問攻めにしてくれた。お姉さんにも色々とあるのですよトムきゅん。リドルンって呼んで良い?


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