12


 ホグワーツ特急に乗る朝は当然ながら皆騒がしく、普段の倍以上にうるさかった。ちょっとくらい黙れば良いのに。大広間は天井が高くて音もさほど響かない筈なのに、どーしてこんなに耳が痛いんだ。


「特急は九時発よね。席、ちゃんととれるかしら?」

「まあ取れると思うよ。コンパートメントはたくさんあるんだし」


 アメリアがかぼちゃジュースの入ったグラスをぐるりと回しながら言った。リドルンと一緒に帰ろーとすると、どっからともなくシンパが現れて確保した席に案内してくれたよなぁ……。なんでかクッションとか入れられてたし――そういえばあのクッションは誰が持って帰ったんだろーか。


「ナルシッサさんのサンドイッチもしばらくお別れかぁ。ナルシッサ大明神様、一年有難うございました。来年もよろしくお願いします」


 手をサンドイッチの前で擦り合わせて親切な奥様に祈った。アブたんの義娘になったとは思えないくらい可愛いよシシー、アブたんにはもったないないよシシー、アブたん禿げろ、いや、もう禿げない場所にいるか。


「……それは来年度のサンドイッチもよろしく、と言う事かい?」

「うん。くれたら良いな、くれないかな、と」


 ドラコがため息を吐いた。なんだよ、くれなくっちゃ死ぬんだぞ! 私が。友人を餓死させるなんてドラちゃんってば酷い。もし死んだら七代にわたって若禿げの呪いをかけてやるんだから☆ 十五歳くらいからフサフサとは無縁になれば良いんだ。ドラちゃんがフと微笑む。


「わざわざ言わなくても大丈夫さ。母上もレイノからの手紙を楽しみにしていると言っておられたし、母上の買い物に付き合う約束だろう?」

「ドラコ大御神様!」

「その変な呼び名は何?!」


 ドラコ、私に甘いよなぁ。便利で良いパシリ……ゲフンゲフン! 心遣いは有難く頂こうじゃないか。ただナルシッサさんとの買い物がなぁ……フワフワでピラピラな服とか小物が好きだからね、シシー。それも魔法界のセンスだから選色が怖い。蛍光グリーンのファーコートとか、誰が着ても似合わないと思うんだよね!


「怖い想像は後回しにしよう、そうしよう」


 ドラコに抱きついて頭をグリグリ押しつければ、アメリアに剥がされて抱き込まれた。


「レイノ、駄目でしょ? 男は皆狼なのよ」

「ドラコ、狼になるなら私にね」


 凄い台詞聞いたよおぃぃぃぃぃ! パンジーどんだけ積極的なの、いや、外国人は皆こうなの?! 今までの数十年の人生経験の中でこんな積極的な十二歳初めて見たよ!


「は、はあ。……?」


 ドラちゃんはいつまでのピュアでいて欲しい。てかこのまま成長が止まれば良い。可愛いドラちゃんのままでいて! 狼の意味が分からないままでいて……!

 女の子二人の意外な一面を知った朝でした。






「セブ、女の子って凄いね」

「どうした、レイノ?」

「耳年増ってああいう事を言うんだね」


 キングスクロス駅からの帰り道、皆と別れた後合流したセブに呟いた。


「私、来年の学校、自信ないよ」


 どんどん話題が恋だなんだの話になって行くんだろうし、それに来年の闇の魔術に対する防衛術の教師はロックハートときた。来年の学校、行く気起きないなぁ……引き籠りになりたいっす。


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