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 ハリーは革表紙のアルバムを捲った。ついさっきハグリッドにもらった、両親の写真だ。友人らしき仲の良さそうな三人と肩を組む若きジェームズ、本にかじりついて彼を邪見に扱っているリリー……特にジェームズは数年後の自分の姿のようで、血の繋がりを深く感じる。寄り添う父と母の姿に目がしらが熱くなり、視界が潤んだ。次のページ、次のページと捲ればそこには、お包みを抱いた父と母の姿があった。腕の中の赤ん坊を見下ろしてはまたこっちを向いて、にっこりと微笑んでいる。


「片方は、僕。じゃあもう一人は……?」


 父と母それぞれがお包みを抱いている。二人の赤ん坊。ハリーは『生き残った男の子』、唯一の生存者……。

 ハリーはそれに気付いた瞬間、顔が真っ青になり、体が震えだしたのを止められなかった。兄か、弟か。はたまた姉か妹かもしれない。僕には双子の兄弟が、いた? その子もヴォルデモートに殺された? だって――だって、『生き残った』と言われているのは僕だけじゃないか。アルバムを取り落とす。ああそんな、神様。






 夕方からの学年末パーティーに向かう道すがら、朝気付いたことを何度も考える。もしかしたら、事実を知って僕が傷つかないように、僕に双子の兄弟がいたことは秘密にされたのかもしれない。なら僕はその双子の兄弟の仇も討たなくちゃいけない。だって僕の双子なんだから。

 大広間に入ればグリーンとシルバーで統一されていた。ハリーが医務室に缶詰になっている間にクィディッチの試合が二回行われて、グリフィンドールにレイブンクローが、ハッフルパフにスリザリンが勝ったと聞いたから、元々あまり浮上していなかった気持ちがみるみる下降した。席に着くとすぐダンブルドアが現れて点数の発表をした。スリザリンは一位を独走して五百五十二点で、グリフィンドールは最下位の三百十二点。差は二百四十点もあって、何があっても追いつけそうにない。スリザリン席からは弾けるような歓声が上がり、ドラコ・マルフォイがレイノに抱きついて、アメリア・ビキンスに殴られているのが見えた。ビキンスはマルフォイを椅子から蹴落とすとレイノを抱き締め、パンジー・パーキンソンがマルフォイを助け起こしている。

 ダンブルドアが落ち着くように言って、エヘンと空咳をした。スリザリンも何事かと静かになる。一体どうしたんだろう……?


「駆け込みの点数をいくつか与えよう。えーと、そうそう……先ずはロナルド・ウィーズリー君」


 ロンの顔が赤カブみたいに赤くなった。


「ここ近年ホグワーツでは見られなかった、素晴らしいチェスゲームを称え、グリフィンドールに五十点を与える」


 歓声が爆発した。フレッドとジョージが俺たちの弟だ、知ってるだろう?! と周りに叫んでる。マクゴナガルのチェスを破ったんだ、と自慢そうだ。興奮も落ち着き静かになった広間にまた、ダンブルドアの声が響く。


「次にハーマイオニー・グレンジャー嬢……炎を目前としながらも冷静な論理を用いたことを称え、グリフィンドールの五十点を与える」


 百点も増えた……レイブンクローには十点及ばないが最下位ではなくなった。もしや、という思いにハリーはダンブルドアを見上げる。ハーマイオニーが嬉し泣きか腕に顔を埋めてるのを横目に見た。


「三番目に、ハリー・ポッター君。その完璧な精神力と並はずれた勇気を称え、グリフィンドールに六十点を与える」


 これで百六十点の加点。でも、あと八十の差は大きい。鼓膜が破れるのではないかという程の歓声に包まれるが、ダンブルドアが手を上げて静かにするよう合図した。


「勇気にもいろいろある。敵に立ち向かうにも多大な勇気がいる。じゃが、友に立ち向かうのにも同等の勇気が必要じゃ。そこで、わしはネビル・ロングボトム君に十点を与えたい」


 ハリーはロンやハーマイオニーと立ちあがって歓声を上げた。スリザリンに点数は及ばなかった。でもそれが何だって言うんだ? 差が七十点もある。それがどうしたって言うんだ? だって僕らはやり遂げたのだから。


「最後に! 最後に一人、忘れてはならん者がいる。レイノ・スネイプ嬢じゃ」


 歓声が止み、皆席に着いた。レイノがハリーに巻き込まれて誘拐されたと皆が知っていた。誰もが息を止めたように動かない広間に、ダンブルドアが口を開いた。


「自らを拘束した敵にもかかわらず、死の恐怖を前にし助けを求めた者に、救いを与えようとした――その慈愛の心を称え、二十点を与えよう」


 スリザリン席からレイノの姿が消えた。押し倒されてテーブルの影に隠れてしまったのだ。

 ハリーはくすりと笑った。負けたことがこんなに悔しくないだなんて、思いもしなかったから。


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