17


「ごきげんよう、諸君」


 いつもに増して抑揚のない言い方を聞いて、声を出さずに腹を抱えた。話しかけたくないのを無理に頑張ってるのが良く分かる。階段を駆け下りてホールへ急いだら、ちょうどセブがハリーたちに話かけたところだった。階段の手すりの影に隠れて笑い声を噛み殺す。あっはっはっはっはっはっは! ひー! 転がりまわって地面を殴りたいくらい面白い。ここ階段だけど。人目がなくて良かったよ……こんなみっともない姿なんて誰にも見せられないからね。


「諸君、こんな日には室内にいるものではない」


 セブとハリー達の視界を外れた場所から観劇する。歪んだ笑顔のセブって珍しいな。写真に撮りたいくらいだ☆ 一か月は笑いのネタに困らないだろーな。


「僕たちは……」


 ハリーが視線をうろうろさせながら言って、でも結局黙った。セブが顎を反らして言う。


「もっと慎重に願いたいものだな。こんなふうにうろうろしているところを人が見たら、何か企んでいるように見える。グリフィンドールとしてはこれ以上減点される余裕はないはずだろう?」


 すごすごと庭に出ようとする三人の背中に向かってセブは言い足した。


「ポッター、警告しておく。これ以上夜中にうろついているのを見かけたら私自らきみを退校処分にする。――さあ、行きたまえ」


 苦節三十一年。やっと本当の傍観フラグが立った! どうぞハリー、三人で勝手に大冒険しといてちょうだい。私は原作を壊す気はあるけど、当事者になる気はさらさらないのだよ。痛い腹筋を抱えつつヨロヨロと立ちあがり、その場を去ろうとするセブに声をかけた。セブが足りない。セブ補給のお時間です☆


「セブっ!」


 階段を一段飛ばしで下りて、最後の七段はジャンプしてセブの胸に突っ込んだ。


「レイノ!」


 セブの歪んだ笑みも見てて楽しいけど、私に向けられる自然な笑顔の方がもっと好き。二週間ぶりのセブは疲れたような顔色で、やっぱり試験期間は教師陣も気を張るんだろーなと思った。


「危ないだろう? 受け止めたから良いものの――階段から飛び降りるのは止めなさい」


 セブは抱きついた私を剥がして、脇の下に手を入れてぶら下げた。


「ちゃんと受け止めてくれるって知ってるからしたんだよ。セブ、お茶」


 降ろされたから手を引いて見上げた。セブは薄く微笑んで頷いた。


「行くか」

「うん!」


 その時、私は他人の視線に慣れ過ぎてて、すっかり忘れてたんだ。三つの小さな影がホールに引き返してくることを。そして私に気付いて隠れたことに、全く注意を払わなかったのだ。たとえばここがヴォルディーの屋敷だったなら、私は視線の元を確認しただろう。でもここはホグワーツで、私を見るいくつもの目に慣れてしまってたんだ……。


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