放課後、自宅への道を雨の中ゆっくり歩く。手には鞄を提げているだけで、傘はさしてなかった。そのせいで雨粒がシャツにどんどん染みていく。けど、気にするのをやめてみたら、意外に楽しくなってきた。おまけに鼻歌を紡いでみる。 強い風が髪を乱していく。流れされた粒が顔に吹きつけた。 半ばスキップのように歩いていると、目の前に白い物体が現れた。それは私を見つけるなり、瞳を見開いて声を発した。 「華子!…全く貴女という人は。こんな天気の中、何を呑気に散歩しているのですか」 白の正体はメフィストだった。右手にはド派手な傘が握られていて、私を迎えに来てくれたのだとわかった。 メフィストが私に近寄ると、ポン、と傘が大きくなった。私は苦笑いしながら傘に入る。 「散歩じゃないって。今日は傘忘れちゃったの」 喋っている間にも、メフィストにマントをかけられる。引きずっちゃうかなと思ったら、ちゃんと長さも調節してくれたみたい。マントは膝下くらいでひらひら揺れた。 暖かいなあなんて思ってると、額を軽く押された。苦い顔をした彼と目が合う。 「…鍵はどうした」 「…あ、」 その一声で私は自らの過ちに気付き、声を漏らす。少し前にメフィストから貰った、ワープが自由自在な便利な鍵。そういえば持ってたな、全然気がまわらなかった。 「やー…、あはは」 「笑い事ではありません。風邪をひいたらどうするんですか」 傘からはみ出さないようにと、肩をぐいと引き寄せられた。距離が近くなってドキリとする。 上がる心拍数を誤魔化そうと、私は顔を俯かせて謝った。 「ごめん。…あ、でもね」 再び顔を上げて言葉を続けようとすると、まだ言い訳するのかと呆れ顔。 私は、そんな彼の手から傘を奪った。 「な、」 「たまには雨風あびてみるのも、いいかなってね!」 奪った傘を閉じて、私はメフィストから距離をとった。途端にまた雨粒が襲ってきて、白いマントがずっしり重くなる。 「ちょ、こら!やめなさい!私まで風邪ひくでしょう!」 「ひけばいいよ☆」 「よくありません☆」 傘を振り回しつつ、ぎゃあぎゃあ騒ぐメフィストから逃げる。水溜まりを踏んで、ぴしゃりと綺麗な音をたてた。 「…っ、捕まえた!」 「きゃっ」 しばらく走り回っていたが、とうとうメフィストに抱き締められ、足が止まる。 視線を上げると、びしょ濡れのメフィストがいた。髪の毛先に雨粒が光っている。くるくるした触角のような一房は、落ち込んだように首を曲げていた。 その姿を笑おうとしたが、私を捕まえるメフィストの腕が腰にまわり、言葉がとまる。 「?…メフィ、」 「いけない子ですねえ、華子?」 背を曲げ、顔を私の耳に近付けてきたために表情が見えなくなったが、怪しく口元を歪める彼を安易に想像できた。囁く低音に本能的に身の危険を感じる。これはやばい、やり過ぎた。 体をよじると、メフィストはまた耳元で囁いた。 「…お仕置が必要ですかな?」 「!?…結構ですっ」 やばい。これはかなり怒ってるんじゃ…。 しかし私が逃げ出そうと暴れる前に、まとまりついていた腕が離れる。次いで、頭上から聞こえる溜め息。 「…まあ、そうですね。それより早く帰って体を暖めなければ、体調を崩されては困ります」 意外にもあっさり許してくれたため拍子抜けした。そして私の手を引き歩き出す彼に、心臓がとくんと鳴る。 かなり動揺しながらも、私は手を握りかえした。 「あ、…ありがと」 「安心なさい、華子。私がすぐに暖めてあげますからね☆」 …ん? 足を止め、反射的に手を引こうとしたが、がっちり握られて離れない。 それどころかぐいぐい引っ張られ、足をもつれさせながら私は叫んだ。 「ちょっと!それ、どういう…」 「まずは一緒にバスタイムですね☆」 「!?」 台風接近中 (晴れの日も雨の日も、あなたが隣りにいる幸せ) - - - 台風が直撃なう、な時に書きました。実際は雨より風がひどいですね |