庭先で、小さなつくしを見つけた。 暦の上では春といっても、外へ出れば風がまだ肌寒い。上着を羽織り、タイツで足を冷えから守る毎日だ。いったいいつになれば暖かくなるのやら。空に向かって胸を張るつくしは、そんな憂鬱の中に見つけた、小さな春の気配だった。 「メフィストさあん」 水やり途中のジョウロを投げ出し、縁側でぼんやりしていたメフィストさんを呼ぶ。 メフィストさんは浴衣姿で、和の景色にも綺麗に映えていた。気だるげな視線が、絡む。女のわたしが羨ましく思うくらいに、彼は美人さんだ。 「おや、どうしました。トカゲでもいましたか?」 「つくしですよ!まだ寒いのに、いくつか顔を出してます」 「つくし、ねえ」 いっこくも早く、この感動を分かち合いたいと手招きするわたし。しかし、メフィストさんは慌てる様子も見せず、つまらなそうな顔で傍らに立った。 「一体、このつくしのどこに春を感じるのか。華やかさの欠片もありません」 「…感受性、足りてませんよ」 「私は貴女を感じるので精一杯です☆」 「…深読みはしないでおいてあげます」 「それはそれは、残念ですな」 額に唇を押しあてられ、くすぐったくなる。 転がっていたジョウロを拾い上げて、色あざやかに咲き始める草花たちに、水をまく。白く優しい日差しが、水滴をキラキラ光らせた。 なんて幸せだろう。この空気を逃すのがもったいなくて、大きく息を吸い込む。甘い水仙の香りが、肺をいっぱいに満たした。となりに視線をやれば、眠たそうに目をこするメフィストさん。 春は、意外とすぐそばまで来ているのかもしれない。 ---- 春の拍手文でした |