信号が青に変わり、エンジン音に包まれる。吊り革がゆらゆらと眠気を誘うが、がたがたと揺れるバスに頭が冴えた。

 今朝、ストーブで暖めた部屋を飛び出し、玄関を開けると、吐いた息が白くて目を丸くした。いつの間にか、季節は冬になってしまっていたらしい。慌てて部屋に戻ってマフラーをひっつかみ、学校への道を踏みしめる。

 しかし歩いていくうちに体が暖まり、さらにバスの車内は暖房がガンガンに効いていて、むしろ暑い。マフラーはあっさりと首元を離れた。

 バスは意外に人が少なく、わたしは後ろの方に座ることができた。椅子から、ぐらぐらとタイヤの振動が伝わる。景色でも見ようかと首をひねったところで、わたしは本日二度目の冬を感じた。窓が外との温度差で、真っ白に曇っていたのだ。


(…冷たい。)


 白いキャンバスに、指でぐるぐる線を引く。キーンとした冷たさが、指の先を白くした。

 指を止めて、少し考える。そして濡れた指先で、窓にハートを描いた。


(メフィスト、もう起きてるのかな。)


 少ない睡眠時間の恋人を想い、ハートをぐりぐり塗りつぶす。雫が一カ所に集められ、つう、とハートがとけるように水滴が流れた。


「なるほど、貴女の私への想いはとろけるほど熱い…という訳だ」

「!?」


 びくっと体が跳ねた。わふ、と可愛らしい鳴き声に視線を落とせば、膝の上に白い犬。い、いつの間に。というか、この犬って…。


「メフィスト!なにしてるの!」

「いやあ、貴女が寒さのあまり凍えていないかと心配で☆」


 必要とあらばいつでも暖めますよ、と足にすり寄ってくる。


「離れろ変態」


 それをべりっと引きはがし、荷物を抱えて椅子を離れた。

 バスはいつのまにか終点で、わたしはいつもどおりそこで降りた。ここまで来れば、学校までは徒歩で数分だ。

 ステップを降りたわたしに続きメフィストも着地したが、アスファルトの冷たさに足をぴょこぴょこ浮かせている。はあ、と白い溜め息が出た。仕方ない。長い毛に手を回し、抱きあげた。


「学校ついたら、ちゃんと仕事に戻ってよ」

「…やむを得ません」


 あったかいと言いながら、わたしにすり寄るメフィスト。わたしはその柔らかい毛を、少し乱暴に撫でた。





凍ったハートの、溶かし方。

( 君の体温、それがすべて。 )



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過去拍手でした。前回は秋だったので、冬のおはなしにしてみました。曇り窓にはらくがきしちゃいますよね、冬の楽しみです

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