学校のテストで、かなり良い点数をとった。

 伸び悩んでいた成績も、折れ線グラフでいえば間違いなく急角度、右肩上がり。返ってきた答案を、机の上に堂々と広げていられる日が来るなんて。

 黒板に書かれていく解説を右から左、視線はずっと点数に落としたまま。ノートさえも広げず、それをにやにやしながら眺める。ああ、なんて素敵な数字なんだろう。飾りたい。玄関に飾りたい。

 だけど、飾るより先に。

 わたしは授業が終わると、誰よりも先に教室を飛び出した。





「ネイガウス先生!」


 塾の職員室、ガラリと音をたてて扉を横に流す。ぽかぽかとあったかい室内で、目当ての人物は一人コーヒーを飲んでいた。


「…ノックするなり、声をかけるなりしたらどうだ。佐藤華子」


 礼儀がなっていないなんて言われたけど、今はそれどころじゃない。周りを見渡して、他に人影がないことを確認。整理された先生の机に、バンっと手をついてテストを広げた。


「先生、これ見て!」

「…答案用紙?」


 ちらりと一瞥しただけで、先生は興味をしめさない。その視界を覆うように押しつけると、渋々という様子でやっと受け取ってもらえた。

 先生はしばらくゆっくりと瞬きをしていたけれど、ようやく点数に気づいたらしい。ほう、と声を漏らした。


「佐藤にしては、なかなか良い点数だな」

「でしょう! 褒めてください!」


 なでてなでて!と近寄るわたしの目前に、紙が突き返された。先生の表情はいつもと同じ、素っ気ない顔。そして吐いた言葉も、


「満点とったらな」


 まさに悪魔の言葉ごとく。ふわふわと浮かれていたわたしの心を、ぴしゃりと地面に叩き落とした。


「ま、満点とか…。無茶いわないでくださいよー…」

「無茶ではない。…お前ならできるだろう?」


 ばちりと合う視線。

 先生がわたしに期待してくれているのは、すごく嬉しい。だけど、記述のテストで満点なんか神業に近い。この高得点でさえ、かなりの奇跡的なのに。

 頑張りたい、先生の喜ぶ顔が見たい。でも。


「…やっぱり、満点は」

「もし満点がとれたら、褒美をやる」


 わたしの辞退の言葉は、先生にかき消された。

 珍しく先生の声音が楽しげに揺れた気がして、首を傾げる。


「褒美?」

「そうだ」


 褒美って、なんだろう。先生のことだから、参考書とかくれそうだ。…嫌だな。すっごいリアルで。

 と、わたしが頭を抱えていた時だった。ふいに左肩を掴まれ、重心が前にぶれる。突然のことに頭が回らなくて、反射的に目の前の胸板に手をついた。やばい、倒れこんじゃう。そう思った時。

 ちゅ、と頬に可愛らしい音。


「!?」


 わたしは驚きのあまり、支えにしていた先生の体を突き放した。なんだ、今の。ぬくもりの残る頬を押さえたら、先生がにやりと笑みを浮かべた。


「…満点を取れたら、この続きをやってやる」


 どうだ、やる気が出ただろう。そう言う先生は、いたずら好きの子供のような、でも大人の色気に溢れた表情で、頬杖をついた。





思わせぶり二者択一

(答えはなんて、もう決まってる)




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シュガーさんへ捧ぐ!相互ありがとう夢です。ネイガウス先生の妖しげな笑みとか、どうですか。わたしは好きです← 相互ありがとうございました、これからよろしくお願いします!


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