とくん、とくん。暖かいリズムが、ゆっくりと心に染み込んでくる。

 わたしは今、ネイガウスさんの膝の上。そこに横向きに座って、頭を彼の胸板に預けていた。すると、自然とネイガウス先生の鼓動が耳元で聞こえる。わたしは、そっと耳をすませた。

 当の彼は、英語みたいなのがいっぱい並んだ紙と睨めっこしている。ときどき眉をひそめているのは、なんだか悪いことでもあるのだろうか。

 とくん、とくん。優しい心拍が届く。静かな空間。ふたりだけの時間。

 ああ、幸せだなあ。わたしは、にやけてしまいそうな顔を彼の胸元に埋めて隠した。


「…今日はやたらと甘えてくるな、華子」


 ぴたりと頬を寄せるわたしに、ネイガウスさんの視線が紙を離れた。彼の瞳が、わたしを見つめている。それだけで嬉しくなって、どきどきしてしまう。

 だけどそんなに見つめられたら、今度は恥ずかしくなってきて、わたしは赤い顔を伏せた。


「だって…ネイガウスさん、あったかいんですもん」

「…俺は湯たんぽじゃない」


 不満そうな顔をするネイガウスさん。だけどわたしは、その苦い表情よりも、他のことに意識をとられた。


「あ。今、俺って言いました?」

「…駄目なのか」

「ううん。むしろ、」


 好き。

 わたしにだけ心を開いてくれているみたいだから。

 わたしは、もっと甘えるように彼に体を預けた。愛しい匂いに包まれる。思わず、するりと頬を寄せた。


「まるで子供だな」


 離れようとしないわたしを見て、ネイガウスさんは苦笑する。


「子供じゃないですー」

「しかし、こんな甘えたでは大人とは言えまい」

「…子供じゃなくてもするじゃないですか」

「…そうか?」


 はてなを浮かべるネイガウスさんに、わたしは腕を伸ばし、ぎゅうっと抱きついた。両手を首にまわし、片時も離れたくないというように。

 実はかなり恥ずかしかったけど、精一杯の愛を込めて、わたしは微笑んだ。


「わたしの…ネイガウスさんの恋人の、特権です」


 ネイガウス先生は不意をつかれたのか、しばらく目を丸くしてわたしを見つめていた。けれど、すぐにわたしを抱き締め、お前には叶わないなと呟いて、唇の端にキスを落とした。





メルト

(とくとく、少しだけあなたの心拍数が速くなった)




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こういうゆんるりしたのが理想だったりします。とけちゃいたーい。


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