ふわり、と甘い香りがした。

 うっすら目を開けると、白くぼんやりとした光。チチチ、と小鳥たちのさえずりが、今日もいい天気だと告げてゆく。

 揺れるカーテンの隙間から、光が風に乗って出入りしている。日はまだ高くないようだが、シーツの中は随分と暖かい。

 あまりに心地よいぬくもりに、このまま二度寝してしまおうと再び瞼を閉じた。髪を撫でていく風と、甘い香りが体を包み、ひどくそれに安心させられる。

 寝返りをうとうとしたときだった。違和感に気付く。

 首元が、あつい。

 何だろう、と力の入らない右手を持ち上げる。熱の正体を知ろうと、首あたりまで腕を曲げたとき。


「やっと起きましたか☆」


 パシ、と右手の動きが止められる。手首が捕らわれた感覚。同時に聞こえた声はすぐ耳元からで、吐息がかすめた。

 しばらくの思考停止。

 しかしすぐに、華子は素早く膝を曲げ足を蹴り上げた。


「、ふぐっ」

「何やってんのよ変態!」


 声の正体は、それこそよく知ったもので。


「……み、鳩尾…だと…、貴女…何を」

「こっちの台詞よ、バカメフィスト!しかも"やっと"って何?いつからここにいたの!」

「昨晩ですけど…」

「!?」


 予想は遥かに超える返答に言葉を失う。


「いやいやお待ちなさい。昨日は華子に言うことがあったんですよ☆」


 華子に跨がり首元に顔を近付けていたメフィストだったが、隣りに寝転がって二人向かい合う。


「夜遅くではありましたが、すぐに伝えたいことでしたので。部屋にお邪魔したんです。…が、残念ながら貴女もう寝ていらした。仕方ないからとしばらく寝顔を見てたら、うっかりつられて寝てしまっていたのです☆」


 もはや言い訳ですらない。自首だ。しかも、ただただ状況を悪化させるだけである。

 華子は、はあっと大きな溜め息をついた。


「メフィストがここにいる理由はわかったけど…。てゆーか、まず人の部屋に勝手に…っ」


 突然、ぎゅっと抱き締められた。

 腕の力は恐ろしいほど強く、そして体のあちこちで、暖かいメフィストの体温を感じた。

 彼は悪魔だけど、ちゃんとあったかい。

 そのまましばらく抱き締められてままで時間が経つ。そろそろ体が痛いんだけど…と、距離をとろうとすると、


「華子、」


 腕の力が緩み、数センチ先に緑の瞳があった。吸い込まれるような、綺麗な色。メフィストは、そのまま言葉を紡ぐ。


「昨日言おうと思っていたこと。今、言っていいですか?」

「?…うん」


 どうしてわざわざ聞くのだろうと、不思議に思いながらも頷く。

 すると、再び距離が縮められ、今度は唇が触れた。

 柔らかさと暖かみを味わうだけの、優しいくちづけ。

 とけてゆくような感覚に委ねていると、ゆっくり唇を離された。開けた目は映るのは、微笑むような、緑。



「愛していますよ、華子」





グリーン・アイ


(その色に、今日も堕ちていく)





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初夢小説、初理事長です
緑の瞳って素敵だな

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