「イゴールと任務、ですか?」


 夕日に照らされた土手で、わたしは思わず声をあげた。

 片手のビニール袋をがさがさ音をたてながら、携帯電話を耳に押し当てる。聞き間違いじゃ、ないよね。驚きで止まってしまった足を再び動かし、舗装されていない地面を歩く。

 耳元の機械を通した声は、愉快そうに跳ねた。


『おや、何か不満がおありですかな?ネイガウスと華子さんは、非常に深い仲だと認識していますが』

「…だからこそ、やりにくいんです」


 祓魔塾の講師、イゴール=ネイガウスとわたしは確かに一応恋仲だった。同棲もしているし、彼に不満があるわけじゃない。問題は、二人で任務をするということだ。

 この携帯いわく、今回の任務でわたしは、その恋人と組むことになったらしい。公私混同はしないつもりだけど、やっぱり違和感というか。一緒に実戦なんて滅多にないから、変な感じ。

 しかし、すべて理事長直々となれば、断りようがない。


『まあ、今回ばかりは我慢してください。二人の愛の成せる、息の合った戦いを期待しています☆』

「…フェレス卿。それ、楽しんでやってますよね?」

『もちろん、私はいつでも楽しいですよ☆』

「…失礼します」


 ぷつり、と電源ボタンを押す。

 スーパーのビニール袋の重みを片手に負担させていたせいで、すっかり手の平が赤くなっていた。買いすぎたかな。結構重いや。

 携帯をポケットにしまっていると、目の前に長い影が二つあると気付いた。


「…イゴール、」


 振り返ると、相変わらず表情を消したイゴールがいた。仕事帰りだろうか、ワイシャツはすっかり着崩れている。噂をすればなんとやら、だね。

 彼は黙ったまま、私の手から袋を奪った。


「…帰るぞ」


 袋を揺らし、少し先をいく彼は、そう言ってわたしを促した。早足で後を追う。


「…俺との任務は、そんなに嫌か」


 土手を斜めに並んで進んでいくと、彼がぼそりと呟いた。視線を上げるが、イゴールは相変わらず前を向いたままで、振り返る様子はない。

 仕方なく、わたしは夕日が反射する赤い川を見つめた。


「なんだ、聞いてたの?」

「まあな」

「フェレス卿にも言ったけど、嫌なわけじゃないよ。ただなんか、ちょっと緊張するなって」

「緊張?…お前も緊張することがあるのか…、ッ」

「わたしをなんだと思ってるのよ!」

「叩かなくてもいいだろう!」


 言い争いをしながら、夕日に照らされ、二人の影は進む。


「…イゴール」

「なんだ」

「任務中、ちゃんと守ってよ。わたしのこと」

「…当たり前だろう」


 少し走ってとなりに並ぶと、手を絡めとられた。自然と歩幅をあわせてくれる彼は、優しい。

 イゴールは前を見据えたまま、繋いだ手に、少しだけ力をこめた。


「俺が守らないで、誰が華子を守ると言うのだ」


 傷一つたりともつけさせん、と小さな声で言うイゴールに、わたしはそっと寄り添った。

 ふたつの影はひとつになって伸び、わたしたちの歩く先を指し示す。

 さっきスーパーで、彼の好きなものを買っておいてよかったなと、頭の片隅で考えた。





寄り添う影

(伝わる熱が、愛しい)




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じゅらいさんへ捧げる、相互記念夢です。イゴールとのリクでしたが、ちらっとメフィも出してみました。ちらっと。これからも贔屓にしてください!笑

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