ぼんやりした頭で、天井の模様ってこんなだったっけ、と無機質な白を目でなぞった。

 まだ外は明るい時間。どこかで工事でもしているのか、かすかながらドタドタと喧騒が耳に響く。窓から差し込む太陽の帯が、わたしの視界をクリアにした。いつもは気にしたことなんてない天井や蛍光灯、時計の秒針がやけに目につく。

 こほこほと小さく咳をした。揺れた拍子に体のあちこちが痛む。柔らかい風も暖かいはずの毛布も、今のわたしには重くのしかかる。ごろりと横を向くと、枕元のコップ一杯の水と薬が目に入り、自然と溜め息がこぼれた。

 久しぶりに熱がでた。昨晩から喉に違和感はあったけど、体温計が示した数字に、これは大変だと人事のように驚いてしまった。ソファに横たわっていると、鉛のような懐かしいだるさに襲われる。

 今日が休日でよかった、とカレンダーを眺める。日付は赤い文字。同時に、明日からはまた仕事が始まってしまうという現実がわたしを追いたてる。

 早く治さなきゃ、と毛布を引っ張り、ひとり瞼を閉じた。





 ぴた、と額に冷たいものを感じ、わたしは意識を取り戻した。

 うっすら開けた視界はぼやけていて、夢なのか現実なのか区別がつかない。

 ぱちぱちと瞬きをするが、視界がはっきりした輪郭を描き出す前に、冷たい影が瞼を覆った。目の前が再び暗くなる。


「…まだ寝ていなさい」


 すぐ近くで声が聞こえた。わたしを気遣っているのか、囁くような小さな声だった。

 そこで、わたしは瞼を覆う冷たい影の正体が手だと理解する。高い体温に心地良く染み渡るそれは、なんだかあったかいような気もして不思議だった。

 黒い視界に瞼を閉じると、手はわたしの顔からそっと離れた。そのまま毛布をかけなおされ、氷のような指が髪をするりと撫でる。

 わたしの発する熱が、冷たい手を溶かしてしまうんじゃないかと心配になった。身をよじろうとしたが、毛布ごしに規則正しくぽんぽんと叩かれ、動きを止める。


「あまり、無理をするな」


 独り言のように零れた声が、熱い耳に響き渡る。優しいそれは、わたしの眠気をゆるりと煽った。

 ふわふわした心地に身を預けていると、ふいにちゅ、と小さな音をたてて額に柔らかい何かが触れた。熱くなった皮膚でも、わたしはそれが暖かいとわかる。

 その柔らかい感触の正体を探る前に、わたしはまた眠りに落ちていった。





氷のように暖かい

(早く元気になって、私に笑顔を見せてください。華子、)




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今、リアルに熱でてる春野です。これはネタのチャンス…!と思い突発的に書き上げました。早く治れー


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