太陽が、雲を焦がすように輝く空の下。わたしは公園のベンチに腰掛けていた。 今日は久々のデートで浮かれ、ついついあちこち歩き回ってしまった。ハイヒールに疲れた足を休ませるため、かかとを地面から離して揺らす。風が指先をかすめ、少しくすぐったい。 「!、ひゃっ」 突然、片頬が冷たくなった。 驚いて振り返ると、自動販売機で買ったらしい飲み物を二つ手にしたネイガウスが、わたしを見下ろしていた。つい先程まで、はしゃぐわたしに振り回されていた彼の髪は、汗で少し湿っていて色っぽい。…って、変態か!わたし! 「や、やめてくださいよ!びっくりした…」 「相変わらず面白い反応をするな、お前は」 苦笑いのように口元を緩める彼から、アイスココアを受け取る。わたしの大好きな飲み物だ。うずまく熱気を凍らせるような冷たさが、指先に伝わった。 ネイガウスはベンチの正面にまわり、プルタブを開けているわたしのとなりに座った。続けて彼の缶の開く音。わたしの甘いココアにまざって、少し苦そうなコーヒーの香りが漂った。 缶を傾け喉を潤していると、ネイガウスがわたしの後ろの背もたれに腕をひっかけた。自然に近くなる体温。まるで肩を抱かれてるみたいだな、と勝手にわたしは顔を赤くした。 「…今日は暑いな」 「真夏日って感じですかねえ…、わっ」 背もたれにあったはずの彼の腕が、わたしの肩に触れた。優しく引き寄せられ、お互いの肩がくっつく。大きくて熱い手が、半袖から覗くわたしの腕を撫でた。 まるで思考を読まれたかのようなタイミングに、かあっと顔が熱をもつのがわかった。 「…ねっ、ねひがうすさん」 「誰だ、それは」 「ネイガウスさんですよっ。あ、暑いとかいってくっつくなんて…」 恥ずかしさを無理矢理に誤魔化し、睨むように視線をやる。けど、缶を握るわたしの両手は、ドクドク高鳴る心臓のせいで少し震えていた。 当のネイガウスは、わたしの葛藤を知ってか知らずか、ごくごくと缶コーヒーを飲み干している。口を離すと、彼は空になったらしい缶をベンチに置いた。 それから、さっきよりも強く肩を押しつけた。 「暑さどうこうよりも、華子に触れたかったからな」 「なっ、なななななにいってんですか!」 「…可愛いな、」 慌てるわたしを見つめ、ネイガウスがぽつりと呟いた。 小さな声だったけど、わたしをさらに動揺させるには、効果はじゅうぶん大きすぎた。 「か、かわっ。かわかわ…っ!?」 「落ち着け」 あまりの恥ずかしさに呂律の回らないわたしの頭を、ネイガウスはぽんぽんと撫でる。それもそれで恥ずかしいのだが、なぜかひどく安心した。駆けるような心拍が、少しずつ落ち着いていく。 わたしは、いつも彼の動作ひとつひとつに翻弄される。笑ったり、怒ったり、悩んだり。すべてネイガウスがくれたもの。 それに反して、彼はあんまり笑わない。いつも落ち着いていて、動揺した姿なんて見たことがない気がする。なんか、ずるい。 いつか絶対見返して、驚いた彼の表情を目に焼きつけてやると企みながら、となりの熱に体を預け、わたしは缶に口をつけた。 貴方がくれたもの (一息ついて、次はどこへ行こうか) - - - - 先生のデレを書いてる瞬間が幸せです |