「貴女には、私さえいれば良いのです」


 気付いたら、見慣れた理事長室にいた。

 ついさっきまで学校の休憩時間で、志摩くんと話していたはずなのに。

 クラスメートの志摩が、人懐こい笑みを浮かべ、


「やっぱ佐藤さんって、えらいかいらしわあ…。なあ!今度、二人でどこか行きまへん〜?」


 とか言った瞬間だったと思う。返事をする間もなく、ここに飛ばされ、椅子に座らされていた。

 私を見下ろすメフィストの表情は、不機嫌そのもの。


「まったく。なんですか、あの脳内ピンクの生徒は。私の華子に親しげに…いっそ、学園から消してやろうか…」


 わたしは、ぶつぶつ言っているメフィストの腕をひいた。弱い力だったけど、メフィストはふわりと片膝をついた。苛立ちと不安に揺れる瞳が、近くなった。


「…華子」

「情けないわね、メフィスト」

「…」


 子供にするように髪を撫でると、彼は目を細めた。心地良いのか、不満なのかはわからないけど。


「偉大な悪魔が、そんなことでどうするの」

「貴女の前では、ただの無力な男ですよ」


 しばらく静かに頭を撫でられていたメフィストは、わたしの目を見据え、不安そうに問うた。


「…私のことが好きですか、華子」

「いいえ」


 これでもか、というくらい即答してやった。

 目を見開き固まってしまったメフィストが再び口を動かす前に、わたしは彼の頬に触れた。


「大好きよ、メフィスト。愛してる。きっと、あなたが考えてる以上に」

「…貴女はずるいですね」


 見開いていた目をぱちぱちいわせ、メフィストが口元を緩めた。

 頬に触れるわたしの手に、細い指が重なる。す、と彼の顔が近付いた。

 しかし、距離がなくなるより早く、わたしは口を開いた。


「で、メフィスト」

「…はい」

「早く帰してよ」


 その一声に、メフィストはまた、ポカンとした顔になる。

 しばらくして、拗ねた子供のような表情で、わたしの手に触れた。


「せっかく、愛を確かめあったところじゃないですか。授業などおいて、今日はこのまま…」

「欠課したくないの。休憩終わるでしょう、早くしなさい」

「ハイ。スミマセン」


 有無を言わさぬ私の言葉に、残念そうな顔をしながら彼は腰をあげた。手をひかれて、わたしも椅子から立ち上がる。

 指を鳴らすために、メフィストが腕を持ち上げる。アインス、ツヴァイ、と動く彼の唇に、私は背伸びしてくちづけた。


「っ、!?」


「終わったら、真っ先に会いにきてあげるわ。メフィスト」


 囁くと同時に、彼の魔法が完成し、煙に包まれる。視界が晴れ、ふわっと足をつけたのは、さっきまでいた教室。

 時計を見上げて、まだ授業開始まで5分あるなと安心していたら、例のピンク頭の志摩が駆け寄ってきた。


「佐藤さん!急に消えはるから、びっくりしたわあ」

「ごめん、ちょっと急用だった」

「あ、せやせや。今日放課後、一緒にどっか行かへん?俺、今日は塾もあらへんし〜」


 すり寄る志摩をさり気なくかわし、わたしは微笑んだ。


「…残念だけど、」





真っ直ぐ会いにいこう


(寂しがり屋が、待ってるから)




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大人クールな夢主と、寂しがり振り回されなメフィさん。珍しいテイストかもしれない。志摩くんの京都弁がわかりまへんー


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