電車に揺られながら、携帯のボタンをカチカチ鳴らす。古いメールをスクロールしたり、友達のブログをチェックしたり。特に目的もなく、画面を見つめていた。 チカチカと携帯が七色に光り、新着メールを知らせた。表示された名前は、メフィスト。 ボタンを連打するようにして、本文を開くと。 --- 華子(≧ω≦)⌒☆ 帰宅中だと思いますが、大丈夫ですか? 夜道には気をつけるんですよ!!(ノ´Д`)゜。 --- …相変わらず顔文字の主張がでかいメールが現れた。 というか心配しすぎじゃないかな。確かにいつもは私の方が先に帰ってるから、珍しく待ってる側の彼にしては、時間が長く感じるのかもしれないけれど。 わたしはすぐに、返信用の真っ白なページを表示さた。 --- 電車なう あと少しで帰れるから --- 我ながら淡泊だけど、大体いっつもこんな感じなので、気にせず送信した。 送信完了を確認し、携帯をパタンと折り畳む。窓の外に目をやると、一面の眩しい夜景。 ――昔、メフィストに告白されたのも、こんな夜景が綺麗なところだったっけ。 思い出に浸るわたしを、電子の光が現実に引き戻した。マナーモードが震えている。 --- 電車ですと(!?゜Д゜) 痴漢に気をつけるのですよ! 私が滅してあげますから --- --- 混んでないから大丈夫だよ --- 先程と同じく、すぐさま返事を書いて、また画面を閉じた。 今度はそれを鞄にしまう。降りる駅はすぐ次まで迫ってきていた。 ガタゴトと揺れ、ブレーキで高鳴る電車に身を委ねる。窓の夜景はすっかり見えなくなっていて、隣りの線路と看板が映るだけだった。棒を掴む手が、鉄を熱していく。 電車が止まり、音をたてて開くドアに合わせて、足を踏み出した。ゆっくりと駅に着地。ヒールを鳴らし、階段を上り下りしてカードで改札を抜ける。鞄にカードをしまい、顔を上げると。 そこには、見慣れた姿があった。 「…何してるの」 駅の出口で、メフィストが浴衣姿で立っていた。まるで祭り帰りみたいだと思ったけど、黒く染められた木綿は、彼によく似合っている。 わたしを見つけたメフィストは、歩み寄りながら笑った。 「心配なので、迎えに来ました☆」 「…もう」 心配しすぎ。私がつられて笑うと、メフィストは私の荷物を持ちあげて自分の肩にかけた。そして少し先を歩き出す。 どうやら歩きで帰るらしい。あの派手ピンクのリムジンかと思ってたから、少し安心した。まあ家まではそう遠くないし。それに、 「たまには、並んで歩いて帰るのも、いいかもね」 涼しい風が肌をくすぐり、秋の訪れを告げていく。 少し歩幅広めに後をついて来る私を見て、メフィストが手を差し出した。重ねるように握ると、指を絡められ、離れないようにしっかり握られる。 「さあ、早く帰りましょう」 月に照らされた彼は、ひどく美しかった。 ただいまを一緒に (あ、今日って満月なんだ。どうりで明るいと思った) (華子。そんなことよりも、早く帰りましょう。早く早く) (どうしたの?、そんな急いで帰らなくても…) (私の愛情100%フルコースが冷めてしまいます☆) (フルコース…え!?ちょ、料理だけは勝手に作らないでって言ったじゃない!あなたの料理は色々と問題が…!) (フハハハハ!遠慮無用☆) (ひぃ!帰りたくないいいい!) - - - - 電車に揺られながら書いたおはなしです。改札を抜けると月があまりに明るくて、いつも見上げてしまいますね |