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『成人の儀』が翌日になっても、相手が決まっていない。いや、候補はたくさん用意してあるが、ライルが抱かないと言い張っているのでどうしようもない。
もうこの頃になってくると、皇后も元老院たちも、ユインに相手を務めるように命令をしてくる。
形式的には懇願だが、実質は命令。
立場の弱い皇帝が、嫌だと言っても誰も聞いてはくれない。
ユインは本来であれば、田舎の小さな領地で、誰も知られずにその生涯を終えたはずの存在。
皇太子の相手が務められることをありがたく思えとまで言われる始末。
皇太子、皇后、元老院が認めたのなれば、もう誰も反対する者はいなくなる。勿論ここで皇帝であるユインの拒否権などない。
だからユインは最後の最後でライルに考えを変えて欲しいと頼んだ。
「お前、俺がいくつか知ってるのか?」
「30歳?それが何か問題なのか?」
『成人の儀』はユインはしていない。あとで難癖付けて即位自体なかったことにする口実も兼ねてだろう。全ての権利を奪われているユインだったが、不満になんか思うことはなかった。
自分の名前など、歴史から消えていいと思っていた。
この皇帝になるべくして生まれてきた、ライルがいれば。
「もっと若い子の方がいいだろ!」
「大丈夫、ユインは若く見えるから、10代で十分とおるよ」
ユインはある特性の持ち主のため、加齢が普通の人とくらべ、ゆっくりと進む。なので、即位したころの15歳の頃とほとんど変わらないように見えた。
「何でそんなに嫌なんだ?覚悟を決めておくように事前に言ったのに。十分、心の準備をできる時間があっただろ?」
「分かってくれよ。自分の子供のように育てた相手に……15も年下の、自分の息子とやれって言ってんだぞ!」
「本当の息子じゃないんだから、構わないじゃないか。いや、息子としか見れないって言うんだったら、可愛い息子の下半身の面倒も見てくれるつもりでも良いよ。子どものころから面倒見てくれたんだから、最後まで面倒みてよ」
あんまりな言いように、反論する言葉がそれ以上見つからなかった。
明日儀式を完了しなければ、ライルは即位できない。これ以上何を言っても、考えを変えれるとは思えなかった。
こんな男に育ててしまったことに責任を取って、最後の面倒を見なければいけないと、やっとしたくもない覚悟をした。
「俺は……子供作るの禁止させられていたから、経験ないぞ……なのに、公開儀式とか」
『成人の儀』は性交が完了できたか確認する立会人がいるのだ。つまり、見ている人がいる前で、息子同然の皇太子と性行為をしなければいけない。
それはどうしても嫌だった。自分の不完全な体を、皆に見られる。
「立会人って、誰が務めるか知ってるか?」
「皇后とか?」
「皇后や元老院が大好きな慣例では、立会人は皇帝。つまりユインだ。ユインに恥ずかしい思いはさせないから安心して」
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