ぽかぽかと妙に暖かい雰囲気を醸し出されている日、屯所の塀の向こうに見える民家からは鯉幟がぱたぱたと空を泳いでいる。今年もこの日が来たか、としみじみ感じるのは、俺も大人になったと云う事なのだろうか。
この年になって誕生日がどうたら言いたいわけでは無いが、まるで自分のことのように喜んでくれる隊士や、近藤さんのはしゃぎっぷりを見せられると、嫌でも笑みが零れる。嬉し恥ずかしなんとやら、とはよく言ったものだ。

「お誕生日おめでとうございます」

今日になって何度と無く聞いた言葉、言われるたびに俺は「ありがとな」なんて何時もは言わないような台詞を言わなくてはならない。感謝をしていない訳では断じてないのだが、どうにも恥ずかしい、慣れないのだ。
ようやく近藤さん達も落ち着いて、ひとりになる時間が出来た午後三時、何時もは総悟が昼寝している筈の縁側に腰掛ける。近藤さんが今日くらいは、と休みをくれたのだ。いくら誕生日だからと言ってそこまでしなくてもいいのに、局長命令だ、なんて云われてしまっては有り難く休みを頂戴する他ない。そして何故ここに総悟が居ないのかといえば、不本意とは云え今日の屯所での主役は俺で、その雰囲気が気に食わなかったのだろう、今は屯所に居ない。まあそれは単なる理由付けで、浮かれている隊士の変わりに見回りでもしているのだろう。総悟はそういう奴だ。年を追うごとに盛大になって行く真選組幹部の誕生日パーティと言う名の飲み会は恒例で、広間にはもう既に大量の酒が用意されている。

穏やかな空気の中で煙草をふかしていると、そういえば今日はまだ一度も顔を合わせていなかった奴が視界に入る。そいつはゆっくりと俺の隣に座って、頭を俺の肩に預けた。普段からきりっとしていて他の隊士たちにも引けを取らないこいつが、こんなことをしてくるのは珍しい。そっと髪を梳けば、僅かに赤く染まった頬が見える。

「なあ」

「なんですか」

「言ってくれよ」

今日は俺の顔はゆるみっぱなし、鬼の副長なんて言えたモンじゃない。それでもまあ、一年に一度くらいは鬼の副長ではなく、土方十四郎として過ごすのも悪くない。


お誕生日おめでとうございます。


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