銀時は腹と右腿、右肩から、高杉は右足首と胸、左上膊部に重傷を負っている。派手に血を零すその傷以外にも無数の切り傷が彼らの身体を赤く染め上げていた。出血多量でいつ失神してもおかしくはない。
正に血戦である。

両者一歩も譲らぬ形で続いていた剣戟の音がふいに止んだ。2人が縺れ合うようにバランスを崩す。
「ぐっ」
運悪く仰向けに倒れ込んだ銀時の胴を高杉の脚が挟みこんだ。高杉が胸に乗せた左膝に体重を掛け、銀時の頸を押さえ込むのが見える。
満身創痍の彼らの何処にそんな力があるのか。息を荒げる両者の指はそれぞれ、首筋に、頸を絞める手首に、メキメキと音を立てながら食い込んでいる。
だが、この体勢は明らかに銀時が不利だ。
このままでは万事屋が、死ぬ。
「銀時ィ。苦しいか?…くく。」
銀時が壮絶な視線を高杉のそれに絡める。しかしその唇は、はくはくと必死に空気を求めている。
「銀時。俺が解き放ってやるよ。長年お前を縛り続けてきた、呪縛からな。」
刀を逆手に握る高杉の腕が振り上げられる。銀時の手が地を這い、刀を探す。
「銀時。またな。」
土方はこの時の高杉の一瞬の表情の変化を見逃さなかった。
彼の隻眼に映るは、憐れみ、慈しみ、そして、哀しみ──
彼らは真にこんな結末を望んじゃいないのだ。しかし、こうする他に選択肢がなかった。人生を捩曲げられ、それでも誇り高くある彼らは。

『ずっと一緒に育ってきた兄弟みたいなものなんだ。』

脳裏に、見た筈もない、あどけなく笑う彼らの姿が浮かぶ。
土方は、彼らの悲鳴を聞いた。
ヒュン
刀が振り下ろされる。切っ先が狙うは、銀時の心臓だ。銀時は未だ刀を探している。
土方は走り出した。
間に合うか。
間に合ってくれ!
高杉の刀と銀時の距離が数センチまで迫る。
ダメだ。間に合わねェ…!
キイィン
突然、甲高い音と共に高杉の刀が僅かに軌道をずらした。それは、銀時の心臓の少し下、肺を貫く。銀時が目を見開きワンテンポ遅れて喀血した。
一体、何が起こったのか。
土方が、糸に引かれたように視線を背後に持っていく。そこには、万事屋のガキ共が息を切らして立っていた。チャイナ娘が持つ傘の先からは硝煙が立ち上っている。彼女は果敢にも、動いたら撃つぞと言わんばかりに高杉に銃口を向け、睨みつけていた。兄貴分に向かって叫ぶ。
「銀ちゃん!依頼受けに行ったんじゃないアルか!?なんで、なんでこんなところで、死にかけてるネ。なんで、私たちのいないところで…っ」
ポロポロと涙を零す彼女を、銀時が蚊の鳴くような声で呼んだ。
「かぐ──」
ドガァァアン!!!
突如響いた、爆発音。高杉と銀時の身体が吹き飛ぶ。続けて起こった爆風に、巻き込まれたと感じたところで土方の意識は暗転した。






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