山崎から報告があってから約一ヶ月。俺達真選組は綿密に作戦を練ってきた。既にターミナルに仕掛けられた爆弾も処理班に任せてある。隊士たちの配置も、突入のタイミングも全て完璧だった。坂田銀時。この男を目にするまでは。

ガキィン!
先程までずっと激しい攻防を繰り広げていた銀時と高杉が鍔迫り合いになる。拮抗する力。ぎりぎりと互いの刀が悲鳴をあげる中、2人は凄まじい眼光を以て睨みあっている。口元に浮かべられる笑みが、更にその場の禍禍しさに拍車をかけているようだ。
高杉の姿を認めるが速いか抜刀した銀時が、男に初めて口をきく。
「高杉。てめェ、自分が何やってんのか分かってんのか。罪の無ェ奴らまで巻き込んでどうするよ。」
言葉とは裏腹に、その口調は無感動かつ間延びしたいつものそれだ。ほんの戯れで口にしてみた。そんな印象だった。
「言っただろ。俺ァこの腐った世界を壊すだけだと。」
「話が噛み合わねェな。」
ふっと銀時がかけていた力を抜く。予想外の動きに、高杉の身体が大きく前傾した。
「悪あがきは仕舞ェだ。」
それを見逃す訳もなく、銀時の刀が一閃する。
ガギッ
が、高杉がすんでのところで鞘を使い、銀時の刀を受け止めた。形勢逆転。今度は銀時の左脇に大きな隙ができた。
「銀時ィ。やっぱお前、弱くなったんじゃねェか?それとも──」
グシャァ!
「この期に及んでまだ俺を救おうと考えているのか。」
銀時の身体から血飛沫が噴き出す。
それを捉えた視界は真っ赤だというのに、頭の中は一気に真っ白に染まる。
「万事屋ァ!」
銀時がスローモーションのように倒れ込み、その身体はぐったりと高杉の肩に引っ掛かる。駆け寄ろうと踏み出した足をぐっと抑えこんだ。銀時に言われたのだ。『高杉はずっと一緒に育ってきた兄弟みたいなものなんだ。だから。決着がつくまで、待っていてくれねェか』と。
「銀時。本当、おめェは甘ェ。そして、相も変わらず馬鹿だよ、なァ!」
「っがあ゙、あ゙あぁあ!」
高杉にもたれ掛かっていた銀時は傷口を容赦なく蹴り上げられ、今度こそ床に崩れ落ちた。痛みにのたうつ姿は見ていられない。土方は唇を噛み締めた。
「知ってるぜェ。おめェのここにもまだ居るんだろ?黒い、ケモノが。」
「ぐはっ」
高杉の足が勢いよく銀時の胸を踏みつける。強い圧迫に目を見開く銀時が、肺を潰さんとする足を痙攣する手で必死に掴む。
「白夜叉の深い業はそう簡単にゃ消えねェさ。悪あがきしてんのはてめェかもなァ。」
銀時の弓手が転がっていた刀を掴んだと思った次の瞬間には高杉の足首から刃が生えていた。鮮血が飛び散る。高杉の口元が大きく歪んだ。
「憎しみに抗う俺、対して、従うお前。端から、是非を論じようなんざ、思っちゃいねェ。」
銀時が喘ぎながら、刀を杖に立ち上がる。
「ああ。堂堂巡りがオチさな。」
くつくつと高杉が笑う。
「だから、今ここで、」
二対の鬼が笑い、白刃が互いの首を狙う。
「「殺してやるよ。」」
二匹の影が重なった。


己が魂を主君と定め、戦う彼等。
忠誠を誓うは近藤だけと言いながら、結局は御膳立てされた武士道を貫いていると言える俺達、真選組。
強靭な彼等を修羅へと成らせた幕府に付き従い、誠を掲げる俺達。
不安定だ。
揺れ動く幕府も。それを元に成立する真選組も。

本当に、これでいいのか。これで……
なあ、近藤さん。






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